EXHIBITIONS

上田義彦「Māter」

2022.08.27 - 09.24

上田義彦 Māter ©︎ Yoshihiko Ueda

上田義彦 Māter ©︎ Yoshihiko Ueda

上田義彦 Māter ©︎ Yoshihiko Ueda

 写真家・上田義彦の新作個展「Māter」が小山登美夫ギャラリーで開催される。

 上田は1957年兵庫県生まれ。写真家・福田匡伸、有田泰而に師事したのち、82年に独立。東京ADC賞最高賞、ニューヨークADC賞など、国内外の代表的な国際デザイン賞を多数受賞し、2014年には日本写真協会作家賞を受賞。同年より多摩美術大学グラフィックデザイン科教授として後進の育成にも力を注いでいる。11年から18年まで、自身のスペース「Gallery 916」(東京)を主宰し、写真展企画、写真集の出版プロデュースを行った。また21年には、初めて脚本、監督、撮影を手がけた映画作品『椿の庭』が公開された。

 国内外で高い評価を受け、40年ものあいだ第一線で活躍し続ける上田。ポートレイト、森、家族、縄文時代の人骨、林檎の木などを写したその作品からは、ひとりの写真家としての、一貫した視点、思想、人柄が色濃く伝わってくる。

 本展では最新作「Māter(マーター)」を発表。マーターはラテン語で「母・源」を意味する言葉で、出展作は、夜の月の光で滝、渓谷と、女性の身体を撮影し、それを一対の作品としている。

 今回の作品は、1990年に撮影したアメリカインディアンの聖なる森「Quinault」に始まり、2011年に屋久島の森を撮った「Materia」、そして2017年の「林檎の木」に続く、命の大元を探る一連のシリーズの延長上にある。地球という、命を生む力を奇跡的に持つ惑星をひとつの大きな生命体とし、その断片としての「水・岩」と、命を産む力を持った女性を、地球の断片としてとらえている。

 上田にとって、夜の闇のなかで命の蠢き(うごめき)だけを浮かび上がらせ、それ以外のものは深い闇のなかに沈み込ませる「月の光」で撮影し続けた今作は、まるで謎に包まれた命の大元を推察するひとつの旅だったという。

 中学1年のときにアポロ宇宙船から撮られた写真を見た際、「宇宙の暗闇に浮かぶ、青く美しい地球の姿は、奇跡の生命体そのものだ」と感じたこと、それがいま思えば「Māter」シリーズの始まりだったのかもしれない、と上田は語っている。