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イリヤ・カバコフ

Ilya Kabakov

 イリヤ・カバコフは1933年生まれ。旧ソ連(現・ウクライナ)・ドニプロペトロウシク出身。スリコフ記念国立モスクワ芸術大学を卒業後、挿絵画家となって生計を立てる。旧ソ連では芸術表現は政府の監視下にあり、前衛的な作家たちは自由な活動を制限されていた。イリヤもそのひとりであり、児童書などの挿画を手がける傍らで絵画やドローイングを制作し、地下に身を潜めながら非公式で芸術活動を続けていた。85年、スイスのベルン美術館で初の海外個展を開催。旧ソ連特有の生活を風刺的に再現した「トータル・インスタレーション(総合空間芸術)」で注目を集めると、87年にオーストリアに移住し、西欧での活動を本格化させる。

 89年、同郷でありのちの妻となるエミリア(1945〜)との共同制作を開始。92年に2人は結婚し、ニューヨークに拠点を移す。93年にはイリヤ&エミリア・カバコフとして、第45回ヴェネチア・ビエンナーレのロシア館代表作家に選出、高い評価を得る。その後も、絵画やオブジェ、音楽、時には鑑賞者の行動を予想しつつ構成した寓意的な「トータル・インスタレーション」を世界各地で展開。代表作の《自分の部屋から宇宙に飛び出した男》(1985〜88)や《決して何も捨てなかった男》(1988)などいずれも、抑圧された社会で生きた自身の経験や記憶と密接に関わり、支配の渦中にあった人々の物語をすくい上げることを重要なテーマとしている。