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鈴木春信

Harunobu Suzuki

 鈴木春信は江戸時代中期の浮世絵師であり、錦絵(多色摺木版画)の誕生に大きく寄与した。その生涯についてはほとんど知られておらず、生年未詳。1760(宝暦10)年の紅摺絵(墨線+紅を主とした2、3色の木版画)の役者絵が、現在確認されている春信の最初の作品で、浮世絵師としての活動はわずか10年しかないが、中性的で人形のように華奢な春信美人は一世を風靡した。

 錦絵の誕生は65(明和2)年、富裕層の絵暦の交換会の流行に起因する。故事や古典を題材とする春信の色鮮やかな見立絵ややつし絵は、美麗を求め趣向を競い合う趣味人たちに大いにもてはやされた。この多色摺版画の技術開発については、春信と交流があったとされる平賀源内の関与も示唆されている。さらに春信は《笠森お仙》(1769頃)など市井の実在の美人を描いて、大衆の心をもつかんだ。春信が描いた評判の町娘たちの茶屋には連日人々が殺到したという。その雅趣と時流を読む慧眼とで、江戸の新たな文化の誕生を鮮やかに彩った絵師は、70年、忽然と歴史からその姿を消した。