ARTISTS

リチャード・ハミルトン

Richard Hamilton

 リチャード・ハミルトンは1922年ロンドン生まれ。イギリスのポップ・アートを代表するアーティストのひとり。ロイヤル・アカデミー・スクール、スレード美術学校などで学び、52年からローレンス・アロウェイ、エドゥアルド・パオロッツィらとともに「インディペンデント・グループ」のメンバーとして活動する。56年にロンドンのホワイトチャペル・ギャラリーで開催された「これが明日だ」展で、ポップ・アート誕生の記念碑的なコラージュ作品《一体何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力あるものにしているのか(Just what is it that makes today's homes so different, so appealing?)》を発表。アメリカからイギリスに渡ってきた雑誌を素材に使い、その文化への関心を示しつつ、一歩引いて大衆消費社会を批評するものであった。ハミルトンはポップ・アートの特徴について、大衆向けのデザイン、安価、大量生産、セクシー、忘れられやすい、若者向けなどを挙げている。

 イギリスで最初に始まったポップ・アートは、60年代にアメリカで紹介され、ロバート・ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、そしてロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホルらの登場によってアメリカ独自のポップ・アートが形成されていった。いっぽう60年代イギリスのポップ・アートは、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学んでいたアメリカ出身のR・B・キタイを中心に、デイヴィッド・ホックニー、アレン・ジョーンズ、ピーター・フィリップスらによって展開された。

 ハミルトンは「インディペンデント・グループ」での活動を55年に終え、その後も既存のイメージを用いたコラージュや版画作品を制作。マルセル・デュシャンに傾倒したことでも知られ、《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)》のレプリカ制作などを行ったほか、66年の「デュシャン回顧展」(テート・ギャラリー、ロンドン)に参加した。68年にザ・ビートルズの『ホワイトアルバム』のジャケットのアートワークを担当。同じ頃、ポラロイド撮影による自画像シリーズを始める。80年代にはスウェーデン発のコンピュータのデザインを手がけ、87年のBBCの番組『Painting with Light』の一環でグラフィックツール「Quantel Paintbox」を使用して以来、コンピュータの画像加工ソフトを自身の制作にも用いるようになった。またアイルランドの歴史に関心を寄せ、ジェイムズ・ジョイスの小説『ユリシーズ』を題材とした版画シリーズなどを残している。83年にテート・ギャラリー企画の「リチャード・ハミルトン:イメージとプロセス 1952−1982」展が開催。93年にヴェネチア・ビエンナーレにイギリス代表として参加し、金獅子賞を受賞。74年に来日し、西村画廊(東京)の「ポップ・アーチスト展」において作品が日本で初めて紹介された。

 2000年代は政治にも目を向け、イギリスのイラク戦争参戦に反対して、08年にホルスターから銃を抜こうとする元イギリス首相トニー・ブレアを描いた《衝撃と畏怖》を発表。同年、高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。10年に政治的メッセージを持つ作品による個展「Modern Moral Matters」をサーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)で開催した。11年没。