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リチャード・プリンス

Richard Prince

 リチャード・プリンスは1949年パナマ運河地帯(旧アメリカ領)生まれ。ボストン郊外で育ち、73年にニューヨークに移住。タイムライフ(Time-Life)社に勤務し、雑誌の切り抜きなどを使って70年代後半より制作を開始する。80年よりカウボーイが馬に乗って荒野を駆ける、タバコの広告写真を引用した「カウボーイ」シリーズ(〜1992)を発表。一般的には撮影者のクレジットが記載されない広告のイメージを再撮影し、作品化した写真シリーズで注目されると、85年からはシルクスクリーンで数行の性的なジョークをキャンバスに転写した「ジョーク」シリーズ(〜2000)など、絵画作品にも取り組む。

 その後、恋愛ものの大衆小説に着想を得た「ナース・ペインティング」シリーズ(2002〜06)を発表し、アプロプリエーション・アートを代表する作家のひとりとして数えられるようになる。アプロプリエーション・アートは、既存のイメージを複写するなどして加工し、作品とすること。メディアが意図的に操作し、消費者に向けるイメージから「オリジナリティ」とは何かを追求するプリンスは、「ジョーク」シリーズで類似するミニマルな絵画やコンセプチュアル・アート、抽象表現主義といった現代美術の形態そのものにも関心を寄せている。

 2008年に「ナース・ペインティング」シリーズとルイ・ヴィトンがコラボレーションし、同シリーズのひとつが当時およそ9億円で落札。既存イメージの流用をめぐっては、同年にプリンスらに対して写真家のパトリック・カリウが著作権侵害の裁判を起こすも、「カナル・ゾーン」シリーズ(2007〜08)におけるカリウの作品集からの写真利用はフェア・ユースにあたるとの判断が下された(14年に和解)。日本では15年に個展「New Portraits」を開催。ソーシャルメディアのInstagramに投稿された写真を流用し、脈絡のない言葉やジョーク、絵文字などにコメントを付した絵画の新シリーズが展示された。