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アプロプリエーション

Appropriation

 アプロプリエーションとは「流用」「盗用」を意味する言葉。アートの文脈においては、すでに流通している写真や広告などを「引用」の範疇を超えて作品に取り込み、文脈を書き換え、再提出する方法論のことを指す。この方法論は、第一にモダニズムのオリジナリティ神話に対する批判的応答として提起されたもの(*1)で、その文脈操作により得られる効果からフェミニズムとの親和性も高く、ハリウッド女優に扮して女性像のステレオタイプを暴いたシンディ・シャーマンなど、広義の「シミュレーショニズム」のアーティストもその方法論を使用している(*2)。

 アプロプリエーションという言葉がアートの文脈で用いられるようになったのは、1977年に批評家のダグラス・クリンプがアーティスツ・スペース(ニューヨーク)で企画した「ピクチャーズ」展(*3)にまで遡る。同展では、トロイ・ブラウンタッチ、ジャック・ゴールドスタイン、ロバート・ロンゴらの作品が紹介され、その特徴を総括するものとしてこの言葉が用いられた(*4)。また、こうした方法論を用いる作家として著名なのは「ピクチャーズ」展にも参加したシェリー・レヴィーンで、ウォーカー・エバンスやエドワード・ウェストンなどのモダニズム写真を再撮影したシリーズで知られている。

 また同じ傾向をもった作家として、リチャード・プリンスは、マルボロの広告で用いられた疾走するカウボーイの写真を再撮影・トリミングした作品を発表することで、イメージに本来備わっていた広告としてのメッセージを剥奪し文脈を書き換える試みを行った(*5)。

 このように70年代後半以降、アプロプリエーションという方法は多岐にわたり参照・使用されてきたものの、その制作の原初には「メディアによるステレオタイプへの批判」(プリンス)や「モダニズムにおける大衆の美化の暴露」(レヴィーン)などの目的が見出されていた(*6)。それゆえに、かような批判意識の希薄な「アプロプリエーション」の使用は、2014年にプリンスが発表した「ニュー・ポートレイト」シリーズ(Instagramに投稿された人々のポートレイトを複写した作品)が物議を醸したように(*7)、その言葉が周知のものとなった現代でもなお批判の声にさらされることがある。

文=原田裕規

脚注
*1──ロバート・アトキンズ『現代美術のキーワード』((杉山悦子・及部奈津・水谷みつる訳、美術出版社、1993、44-45頁)
*2──暮沢剛巳「ポストモダン」『現代アート事典 モダンからコンテンポラリーまで…世界と日本の現代美術用語集』(美術出版社、2009、87-88頁)
*3──沢山遼「『ピクチャーズ』展」
*4──暮沢、同上
*5──木村剛大「現代美術とフェア・ユース アプロプリエーションと向き合う著作権法」『広告Vol.414 特集:著作』(博報堂、2020、179頁)
*6──松井みどり「フェミニズム&ゲイ・アート」『現代アート事典 モダンからコンテンポラリーまで…世界と日本の現代美術用語集』(美術出版社、2009、84頁)
*7──「違法?合法?他人のインスタ写真を無断使用した作品が約1千万円で落札 アート界に物議」「FASHION HEADLINE」、2015年5月28日