池田学は1973年佐賀県生まれ。98年の東京藝術大学での卒業制作以降、ペンを使った超細密画を制作してきた。
9月27日より日本橋髙島屋で始まった「池田学展 The Pen −凝縮の宇宙−」は、佐賀県立美術館(2017年1月〜3月)、金沢21世紀美術館(4月8日~7月9日)の巡回を経て開催されるもので、池田の20年におよぶ画業を一望する大規模個展だ。藝大卒業制作の《巌ノ王》(1998)から、制作に3年の月日をかけた超大作《誕生》(2013-16)まで、約120点が並ぶ。
佐賀では9万人を超える入場者数を記録するなど、その緻密な作品で多くの人を魅了する池田。関東ではここだけの開催となる本展について「僕自身も楽しみです。いろんな人に見てもらい、自分がこれまで線を積み重ねてきた軌跡や思いを、絵を通して見てもらえると嬉しいです」と語る。
下絵を一切描かず、どんどんと完成部分を積み重ねていく池田作品。本展の見どころとしては大きく《巌ノ王》(1998)、《興亡史》(2006)、そして《誕生》(2013-16)が挙げられるだろう。
《巌ノ王》は池田が初めて「ペン画が美術作品になるんだと気づいた」作品。9枚のパネルで構成されているが、当初は上段中央の一枚だけを描いていたのだという。「当時の担当教員だった日本画家・中島千波先生に相談したところ、『継ぎ足して大きくすれば』とアドバイスを受けた」ことが、現在の池田のスタイル確立に繋がった。
池田が初めて、「日本をテーマに描いてみたいと思った」という作品が《興亡史》だ。その名の通り、「武士の興亡の歴史」が繰り広げられている画中には、枯れ木や竜巻も描かれており、「人間と自然との戦いの歴史」の意味も含まれている。一年半をかけて制作された同作はインドアのロッククライミングから着想したと池田は話す。
本展の最後を飾る《誕生》は池田にとって史上最大の作品。2013~16までの3年間をかけ完成させた同作は、ウィスコンシン州・チェゼン美術館での滞在制作でつくられたもの。2011年、東日本大震災の発生をアメリカで知った池田は「自分の国の出来事を海外から見た衝撃は、距離が離れている分、強く感じました。その瞬間から運命が決まった」と語る。
作品下段には津波や台風、地震など世界中で起こり得る自然災害で破壊された世界が、中段には人々が生活を再建する場面が、そして上段にはその生活が盛り返し、満開の花を咲かせた様子が描かれている。しかし、それらの花はよく見るとプロペラやハザードマークなど、実物の花ではない。ここには「まだ何も再生はしていない。まだまだ時間がかかるのではないか」という作家の思いが込められている。また画中には、3年の制作の間に生まれた2人の娘や、亡くなった友人なども描かれ、「新しい時代がまたゼロからスタートする」という意味もあるのだという。
本展ではこれら大作だけでなく、幼少期の絵画からキャリアの中で制作されてきた様々な作品が並ぶ。進化を続ける池田学の世界に浸れることだろう。