西洋の名画を「恐怖」という切り口で解説した美術書『怖い絵』シリーズ。視覚的な怖さだけでなく、描かれた時代背景や隠された物語などの知識をもとに、名画に秘められた様々な「恐怖」を読み解き、ベストセラーとなった。
本展は、このシリーズの著者であるドイツ文学者・中野京子が特別監修し、本に登場した作品を筆頭に、近世から近代にかけてのヨーロッパで描かれた油彩画や版画を展示。計約80点を「神話と聖書」「悪魔、地獄、怪物」「現実」など6つのジャンルに分け、それぞれの絵の「怖さ」に気づくためのヒントとともに紹介する。
特に注目なのが、初来日を果たすロンドン・ナショナル・ギャラリーの代表作、ポール・ドラローシュの《レディ・ジェーン・グレイの処刑》(1833)だ。わずか9日間のみ王位にあった16歳の若き女王の最期を、繊細な筆致と緻密な構成で美しくも残酷に描いている。
そのほか、海の魔女セイレーンに惑わされ狂乱する男たちを描いたハーバート・ジェイムズ・ドレイパーの《オデュッセウスとセイレーン》(1909)や、精神を病んでいた作家の人生と重なるチャールズ・シムズの《そして妖精たちは服を持って逃げた》(1918-19)、オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』の場面をグロテスクに描いたオーブリー・ビアズリーのワイルド『サロメ』より《踊り手の褒美》(1894)など、バラエティ豊かな「怖い絵」が登場。ターナー、モロー、セザンヌなど、ヨーロッパ近代絵画の巨匠による作品も選ばれている。
一見何も怖いものは描かれていないように見える絵画が、その背景を知ることで別の顔を見せる瞬間を体感してみてはいかがだろうか。