有識者が選ぶ2023年の展覧会ベスト3:塚田萌菜美(アートコンサルタント)

数多く開催された2023年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回はアートコンサルタント・塚田萌菜美のテキストをお届けする。

文=塚田萌菜美

「Myth Makers—Spectrosynthesis III」展の展示風景より、サムソン・ヤング《PP》(2022) Photo by South Ho
前へ
次へ

「Myth Makers—Spectrosynthesis III」(香港・大館/2022年12月24日〜2023年4月10日)

展示風景より、手前の映像はジョセフ・ン《Brother Cane》(1994) Photo by South Ho

 今日の香港でLGBTQ+をテーマにした展示を公立美術館で検閲なしに開催できるのかどうか、見極めたく訪問した。

 会場のすべての出入口に注意書きがあり、検閲・撤去済作品(*1)の場所に張り紙があるのは想定内だが、各キャプション横に「映画検定審査条例(392章)承認証」や「特例承認証」が並んでいる様は、会場が旧中央警察署・刑務所が前身の建物である文脈を踏まえるといっそ壮観であった。展覧会自体はクィアコミュニティのなかでもLGBTに主にフォーカスし、アジアにおけるクィア作品の歴史叙述と現在への接続を主眼に置いていた。いまやLGBTQIA2S+とも言い、次々と多様なあり方が再発見され続ける状況においては、「第3章:クィア・フューチャーズ」はやや手薄だったが、非常に意義深い展示であったと言えよう。

「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」(アーティゾン美術館/2023年6月3日~8月20日)