自然素材を扱う游文富と、人気絵本作家の幾米。2人の台湾出身作家が構想する、新たなコミュニティのあり方とは

国際的に大きな注目を集める台湾のアートシーンに、全4回で迫る本連載。最終回となる今回は、「北アルプス国際芸術祭 2020 - 2021」(2021年8月21日〜10月10日)に参加予定2名のアーティスト、游文富(ヨウ・ウェンフー)と幾米(ジミー・リャオ)を紹介する。[台湾文化センター×美術手帖]

文=栖来ひかり

2015年に台北当代芸術館で発表した游文富《竹工凡木》
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游文富(ヨウ・ウェンフー)
伝統的な竹工芸の技で現代の日台をつなぐ

 竹材の豊富な台湾では古くから竹工芸が盛んで、日本の美術家や愛好家たちの心も深くとらえてきた。民藝運動で活躍した陶芸家の河井寛次郎もそのひとりで、「台湾の竹家具ぐらい『竹』の立派な素質を出しきっているものはまれらしいと思う」との言葉を残している。

 竹材や、鳥の羽根といった自然素材を使って作品づくりを行う游文富(ヨウ・ウェンフー)も、竹の産地である南投県の竹山に拠点を置くアーティストである。竹工芸を生業とする家に育ち、幼い頃から伝統工芸や絵画、書道などにふれてきたという。青年期には軍人として空軍に所属、退役後にアーティストとして活動を開始。サンフランシスコやニューヨーク、パリなど国内外のアーティスト・イン・レジデンスや芸術祭で精力的に制作を続けている。

 「北アルプス国際芸術祭 2020 - 2021」で游文富が計画しているのは、2015年に台北当代芸術館での個展で発表した《竹工凡木》を展開させた作品だ。「竹工凡木」とは「築」という漢字を分解したもので、昔ながらの建築工事に「竹材」「職人」「モデル」「木材」という4つの要素が深く関わってきたことを示す。台北当代芸術館を竹編みで覆い隠したように、今回は長野県大町市にある建物を覆う計画で、使用するのは地元の人々と伐採した「竹」と、故郷の台湾竹山で工芸職人を集めて編み上げる「竹」である。

 日台双方の素材と人々の手仕事を経て構築する今回の新作は、大町市での現地視察を経て、八坂地区の関係者たちと討論を重ねながらともにつくり上げるスタイルを取っている。「日本と台湾、それぞれ山奥の集落で暮らす人々にとって、この作品は故郷の里山への誇りと精神性を示すまったく新しい建築表現になるだろう」と游は語る。

游文富 南方向量 2018

 そして今回のコロナ禍について、このように続けた。

 「主に自然素材を創作に使ってきた私は、長い歳月をかけて自然との対話を重ねることで、自然への気づきを深めました。そのため、コロナ禍は自然が人類に向けたある種の反逆であり警告のメッセージであると感じています。これを機に人類が真心をもって唯一無二の地球に接することができるよう願っています」。

 冒頭の河井寛次郎も、台湾の竹工芸に影響された作品を多く残したいっぽうで、台湾では日本統治時代に「竹材工芸伝習所」が設置され、日本から職人が来て指導することもあった。台湾と日本が技術交流し、影響を与え合いながら発展した竹工芸の歴史において、今度は游文富という台湾人アーティストが、新たな日台の物語を編もうとしている。

「北アルプス国際芸術祭2017」で恒久設置された、幾米《私は大町で一冊の本に出逢った》(2017-)より、ブックショップの様子
画像提供=北アルプス国際芸術祭実行委員会

幾米(ジミー・リャオ)
台湾の国民的絵本作家がつくり出す本との出合い

 幾米(ジミー・リャオ)は、日本をはじめ韓国・タイ・ヨーロッパでも著作が翻訳されている台湾の国民的な絵本作家・イラストレーターである。1958年に台湾東北部の宜蘭県で生まれ、大学を卒業後に広告代理店に勤務。新聞や雑誌のイラストを長年担当していたが、白血病を患ったことをきっかけに自宅療養を経て、1998年40歳のときに絵本作家としてデビュー。以来、多くの絵本を発表し、2008~14年にかけては台湾・香港・中国で大型巡回展を成功させ、パブリック・アートを制作するようになる。

 2009年に出版されベストセラーとなった『星空(The Starry Starry Night)』など映画化された作品も多く、幅広い年齢層から支持されている幾米の哲学的・美的世界は、故郷の宜蘭にある「ジミー文化回廊」をはじめ、台北市の公共バス「ムーン・バス」、台南にあるサイエンスパークの「ジミー公園」など、台湾各地にあるパブリックアートでふれることができる。いずれの作品も、それぞれ置かれた場や環境との対話を通して制作されたもので、地域と想像世界をつなげる新しい試みを次々と提供してきた。

 幾米が日本の芸術祭に初めて参加したのは、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」。故郷・宜蘭を思わせる新潟の田園風景のなかで出合った「かまぼこ型倉庫」に着目し、小さな駅を展示場所として屋外オブジェを制作した。

「北アルプス国際芸術祭2017」で恒久設置された、幾米《私は大町で一冊の本に出逢った》(2017-)より、ブックショップの様子
画像提供=墨策國際股份有限公司

 その後、同芸術祭総合ディレクターを務めた北川フラムより、長野県大町市にある大町名店街でインタラクティブな作品をつくってほしいという申し出を受け、「北アルプス国際芸術祭 2017」に参加。下見で街を散策していたときに見つけた“街中図書館”(地元の人々が貸し借りする段ボールに入った古本)に注目した幾米は、その古本1冊ずつに新しいイラストカバーを付け、《私は大町でー冊の本に出逢った》というコンセプトで、地元の福祉団体が運営する共同作業所(がんばりやさん名店街)を舞台に、旅人や地元の人々が未知の読書体験に出合えるブックショップを開いた。「北アルプス国際芸術祭 2020 - 2021」では、前回の理念を受け継ぎながら、新たな展開も構想中だという。

 地域が内包する可能性を開き、コミュニティの新たな道を発見する媒介としての、幾米の作品たち。コロナ禍によって世界が大きな価値観の変換を迫られているいま、絵や物語を通して物事の本質に近づこうとする幾米の思想は、ますます重要性を増していくだろう。

「北アルプス国際芸術祭2017」で恒久設置された、幾米《私は大町で一冊の本に出逢った》(2017-)より、イラストブックカバー
画像提供=北アルプス国際芸術祭実行委員会