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初開催! 自然と宇宙芸術の交差する芸術祭「種子島宇宙芸術祭」が開幕

今年初めての開催となる種子島宇宙芸術祭が、8月5日〜11月12日で行われる。鹿児島県の種子島全域を舞台とし、宇宙芸術をテーマにした本芸術祭。ここでしか味わえない魅力を、速報レポートでお届けする。

夜間にライトアップされた、ミラーボーラー《はじまりはじまり》

 種子島宇宙芸術祭は、西之表市を中心とする北エリア、中種子町がメインとなる中央エリア、そして南種子町を主とする南エリアの3つで構成されている。それぞれに作品やプロジェクトが点在しており、芸術祭を巡ることで島の魅力も満喫することができる。その一部を紹介していこう。

北エリア|商店街の賑わいに溶け込んだ島のアート

 鹿児島港から高速船「トッピー」(近海に生息するトビウオに由来)で種子島に向かうと到着するのが、北エリアの玄関口、西之表港だ。港を中心に広がる西之表市商店街には、そこかしこにアートが展開されている。芸術祭プロジェクト「まちかどギャラリー」では、薬局や本屋に参加作家が作品を設置。商品の陳列棚や店内の壁面にアートが溶け込んでいる。商店街を散策しながら、ぜひ作品を見つけてほしい。

 この商店街では、2011年からアートプロジェクト「くろしおの芸術祭」が行われており、住民らに施された魚の絵(壁ギャラリー)や色鮮やかなベンチ(くろしおアートベンチ)なども、設置されている。アートに彩られた町並みを、ぜひ楽しんでほしい。

食事や買物ができる複合施設「風の街」に展示された、森脇裕之の《ペットボトルロケット》。夜間にはライトアップされる

中央エリア|雄大に広がる自然と、点在するアート

 南海中学校跡地では、ミラーボーラーと中村哲也が作品を展示。2002年の廃校以来、風化した体育館に設置されたミラーボーラー《はじまりはじまり》(2017)は、巨大なたまご型のミラーボールだ。天井から吊るされた作品は廃屋を幻想的な空間に変え、未知との遭遇を想起させる。夜になるとミラーボールが光り、昼とは異なる印象を演出する。

様々な色のパネルで構成されている、ミラーボーラー《はじまりはじまり》

 中村哲也《ペイントフェアリング・5SH型改》(2017)は、実際に打上げられたフェアリング(ロケットの先端に格納された人工衛星を、大気圏突入の衝撃から保護する部材)をもとに制作されている。これに、スプレーガンによる塗装やエイジングが施され、周囲や壁面を、廃校に自生していたツタとレプリカのツタが覆った。仮想のデザインを現実に具現化する「レプリカシリーズ」をこれまで展開してきた中村が、現実のロケット部品と幻想を静かに融和させた本作。校舎の端にある教室で、忘れ去られた遺跡を発見したかのような錯覚を、鑑賞者は覚えるだろう。

中村哲也《ペイントフェアリング・5S型改》の展示風景

 島の中央にある種子島空港には、小阪淳《宇宙図》(2007)と木村崇人《雲になる日》(2015)が展示されている。空港を訪れる際は、ぜひ鑑賞したい。

南エリア|JAXA施設の周囲に広がる多様な宇宙芸術

 南種子町の中心街にある黒い建物は、小阪が基本設計として携わった「インフォメーションセンター999」だ。今回を期にリフォームされ、内外の壁面が黒く塗装された。芸術祭の総合ディレクター・森脇裕之は「美術館やギャラリーで多く見られるホワイトキューブに対し、『ブラックキューブ』として宇宙を想起させる展示スペースをコンセプトにした」と語る。会期後もこの施設はギャラリーとして残る予定で、種子島における宇宙芸術の発信拠点となっていくことが期待される。

南種子町にある「インフォメーションセンター999」

 このセンターに展示されている小阪淳の《f(p)》(2017)は、三面モニターに映る映像をコントローラーで操作する作品だ。独自の計算式によってリアル・レンダリングされた数式の造形世界を、正面にあるコントローラーで鑑賞者は自由に移動することができる。小阪は、モニターに映る景色を「数式によって形成された、意図や思考が働いていない世界なのに、異文化の文様やSF映画のセットなど、どこかで見たことのあるような錯覚を受ける。数式と人間の意識下の関係を考えさせてくれる作品」と語る。

小阪淳《f(p)》の展示風景

 インフォメーションセンターの近くにある南種子漁協直営店「天空のパラダイス」の2階では、2つの作品が共鳴し合っている。メディア・アーティストの藤本直明と陶芸家の中田ナオトが、月面データをもとにクレーターなど凹凸のある陶板作品《月にふれる》(2017)を制作。鑑賞者は素足でその上に立ち、月面を肌で体感することができる。藤本による《Immersive Shadow:Moon》(2017)は、スクリーンに、月面世界に置かれた机や椅子が映っており、鑑賞者の動きに合わせて自由に動かしたり空に飛ばすことができる。これらの挙動は、藤本によって地球の6分の1の重力しかない月面世界を疑似体験できるようにプログラミングされている。

写真手前の陶板が、藤本直明+中田ナオト《月にふれる》。奥が、藤本直明《Immersive Shadow:Moon》

 コンクリートの工場跡地には、千田泰広の《Myrkviðr(ミュルクヴィズ)》(2017)が展示されている。暗い工場跡の奥ではLEDが光りながら回転しており、光源が鑑賞者を向くたびに、その周囲に張り巡らされている糸が光の粒となって輝く。それらはまるで、恒星とそのまわりで弧を描く惑星の軌跡のように見え、宇宙を覗いたような感覚を鑑賞者に想起させる。

千田泰広《Myrkviðr》の展示風景。台風5号による影響で、取材当日は展示場所が一部破損。実際は、より光の入らない場所となる

 森脇は「宇宙芸術と聞くとメディア・アートなどのみを連想する人が多いが、自然のなかで宇宙の神秘を感じる作品も、そのひとつと言える。種子島宇宙センターがあり自然に囲まれた種子島で、宇宙芸術の多様性を感じてほしい」と、本芸術祭の意義を語る。

 種子島はサーフィンスポットとしても人気で、近年東京など都市圏からの移住者が増えている。彼らはカフェや雑貨屋を経営するなど、島に新しい趣きを与えている。また、古くから自生する木々や海岸の造形に見られる生命の神秘には、圧倒させられるだろう。芸術祭の機会に島を訪れ、アートはもちろん、種子島特有の様々な魅力を、ぜひ満喫してほしい。

編集部

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