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マーク・ブラッドフォードが描く「歩き続ける」社会的抽象──韓国初の大規模個展からたどる、暴力・移動・連帯の記憶【2/3ページ】

 「Train Table」シリーズもまた本展のために制作された新作のひとつであり、1910年から70年にかけて600万人以上の黒人が南部から北部・西部へと移動した「グレート・マイグレーション」に着想を得ている。歴史的な鉄道時刻表をモチーフとし、地名や数字が幾層にも重ねられた画面は、地図のような視覚的構造をもちながら、移動の物理性だけでなく、心理的・政治的な断絶やずれも示唆している。

「Train Table」シリーズより、《The Air Was Worn Out》(2025) mixed media on canvas
© Mark Bradford. Courtesy the artist and Hauser & Wirth.

 ブラッドフォードはこう語る。「私たちが『移民』や『移動』を語るとき、異性愛的な家族を前提とした『大きな物語(グランド・ナラティブ)』が語られがちです。でも実際には、クィアの人々が政治的な迫害から逃れるために移動せざるを得ないケースが、いま、かつてないほど増えています」。

 このシリーズのなかでも、赤が滲みピンクへと変化していく色彩が印象的な一点《Pink Lady》(2025)では、ピンクがナチス政権下でゲイ男性を示すために用いられた「ピンク・トライアングル」の記憶と重なりつつ、異性愛的な家族を中心とした従来の「移民神話(migration narrative)」を脱構築する色として提示されている。

「Train Table」シリーズより、《Pink Lady》(2025) mixed media on canvas
© Mark Bradford. Courtesy the artist and Hauser & Wirth

 「女性やクィアの人々は、暴力や迫害から逃れるために、同じ都市の中ですら迅速に移動せざるを得ないことがある。そうした小さく切実な移動の物語も、移民の歴史の一部なのです」と語るように、ブラッドフォードはこの作品を通して、「移動」をめぐる想像の枠組みに揺さぶりをかけている。

編集部