「森本啓太 what has escaped us」(金沢21世紀美術館)レポート。どこにでもある風景、誰のものでもある風景【2/4ページ】

 カナダ時代、森本は意識しなければ通り過ぎてしまうような街の風景に足を止めて、それを見つめ直すことで特別な位相へと昇華する試みを始めた。当初、レンブラント・ファン・レインをはじめとした古典絵画の技法を用いて現代の人物や風景を描き始めたというが、その興味はやがて人工の光へと焦点化され、その光のなかに生命にも似た営みを見出すようになっていく。

展示風景より、森本啓太《This stays between us》(2024)

 500号の大型のキャンバスに描かれた新作《For the light that left us》(2025)を見てみる。描かれているのは、夕刻の住宅地を見下ろす坂であり、信号機と自動販売機が灯りを点し、その光は信号待ちをしているであろうふたりの人物の姿を照らす。典型的な日本の風景といえる本作のなかの人物は、匿名的に描かれており、それゆえに、鑑賞者が知っている誰か、あるいは鑑賞者自身を投影できる存在にもなっている。

展示風景より、《For the light that left us》(2025)