豊田市美術館の特徴でもある吹き抜けの展示室1には、全面がカーペットに覆われた「彫刻」とも「建築」ともつかない巨大な構造物が出現。天井まで達するほどのスケールを持つこの構造物からは「梁」のようなものも突き出ており、文字通りほかの展示室へと「貫入」している(その貫入は全体をひと通り見て、初めて実感できる)。
光源についても工夫が凝らされており、今回は1ヶ所を除いてスポットライトやシーリングライトを使わない、自然光のみでの展示が実現された。これによって、作品を含む展示室の表情はつねに変化を続ける。とくに開幕後2週間ほどは、閉館時間(17時30分)が近づくにつれてだんだんと暗くなる展示室で、作品が闇に溶けていくような光景を目にすることができるだろう。
本作で使用されたカーペットの総面積は約880平米。その数字から見ても規模の大きさが想像できるが、重要なのは「もの」だけではない。通常は絵画やインスタレーションなどを見せる展示室にインストールされた巨大構築物。そうした状況において、「既存の空間に何が起こるのか」という問いを提示していることも重要なポイントだ。
作品は空間を様々な角度に切り取り、それによって鑑賞者は本来の美術館建築が持つ様々なディテールに気付かされる。
豊田市美術館について「昔から親しんでいた場所であり、把握している空間だった」と語る玉山拓郎。本展は作品のスケールからしてもチャレンジングな個展に見えるが、「もともとこの美術館をひとつの大きな空間として見ていたので、今回は素直な態度で臨んだ」と話す。
大胆なキュレーションとそれに呼応する玉山ならではの手つきによって、谷口建築に対する新たな眼差しが生みだされた展覧会だ。
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