東京の世田谷美術館で、「民藝」をテーマとした企画展「民藝 MINGEI─美は暮らしのなかにある」が開幕した。担当学芸員は加藤絢(同館学芸員)。大阪会場(大阪中之島美術館)のレポートはこちら。
いまから約100年前、思想家・柳宗悦は日々の生活のなかにある美を慈しみ、素材やつくり手に思いを寄せる「民藝(民衆的工藝)」の重要性を説いた。本展はこの思想をテーマに、生活を彩る「衣・食・住」にまつわる様々な民藝品を日本民藝館の所蔵作品を中心に約150点展示。さらにその産地を訪ねることで、つくり手とその手仕事にもフォーカスするものとなっている。
本展の監修を務めた美術史家・森谷美保は「これまでの民藝展は、柳宗悦の生涯を追いながら民藝運動を取り上げるようなものであった」としつつ、本展では「身近にある民藝の存在を視覚化することを目的とした」と語っている。また、4会場目となる本展からは一部展示替えも行われた。
会場は3章構成だ。第1章では、柳が1941年に設立した日本民藝館で開催された「生活展」を再現。当時、展覧会には、柳が実際に使っていた品が展示されたケースもあったようで、「いかに生活のなかに民藝があるのか」といったメッセージを伝える画期的なものであったという。
第2章では、そういった暮らしのなかにある民藝品の数々を「衣・食・住」の3つに分けて紹介している。東京展では「衣」のエリアに、元々の着物をつくりなおして生まれた再生衣服《剣酢漿草大紋山道文様被衣》(18〜19世紀)も展示。柳が民藝を選定するにあたって「再生利用」にも目を向けている点がポイントだ。また、「食」「住」でも各地の品が展示されているほか、柳が関心を寄せていた沖縄の民藝品も展示されている。
第3章「ひろがる民藝」では、柳の没後、民藝運動がどのように展開していったのかについて、濱田庄司、芹沢銈介、外村吉之介らが刊行した書籍『世界の民芸』(1972)をもとに構成。国内のみならず、海外における民藝品の事例を紹介している。
また、民藝運動により注目を集めた日本各地の工芸の産地についても取り上げている。伝統を受け継いだ現代のつくり手たちの“いま”が、映像とともに紹介されている。
最後の展示室では、セレクトショップ「BEAMS」のディレクターとして、現在の民藝ブームの隆盛に大きな役割を果たしてきたテリー・エリスと北村恵子(MOGI Folk Art・ディレクター)による、現代のライフスタイルと民藝を融合したインスタレーションも展示。つくり手たちとコミュニケーションを図りながらアップデートされた現代の民藝の在り方にも注目してほしい。