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機械と人間の関係性を考える。ポーラ美術館で「機械」に関する多様な芸術と出会う

1920〜30年代のパリを中心に、「機械」に関するテーマで制作された様々な芸術作品を通じて機械と人間との関係性を問う展覧会「モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン」が、箱根のポーラ美術館で開幕した。会期は2024年5月19日まで。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より

 1920年代、ヨーロッパ諸国では第一次世界大戦からの復興によって工業化が進み、「機械時代」(マシン・エイジ)と呼ばれる技術が急速に発展する時代を迎えた。そのなか、機械に対する賛美と反発が同時に現れ、当時の芸術の中心地であったパリをはじめとする欧米のアートワールドにおいても様々な応答があった。

 そんな1920〜30年代のパリを中心に、ヨーロッパやアメリカ、日本でモダニズムが進むなかで生まれた様々な芸術を通じ、機械と人間との関係をめぐる様相を紹介する展覧会「モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン」が、箱根のポーラ美術館で開幕した。担当学芸員は東海林洋と山塙菜未。

第1章「機械と人間:近代性のユートピア」の展示風景より、左はクロード・モネ《サン=ラザール駅の線路》(1877)
第1章「機械と人間:近代性のユートピア」の展示風景より

 本展は、「機械と人間:近代性のユートピア」「装う機械:アール・デコと博覧会の夢」「役に立たない機械:ダダとシュルレアリスム」「モダン都市東京:アール・デコと機械美の受容と展開」の4章と、エピローグ「21世紀のモダン・タイムス」によって構成。フェルナン・レジェやコンスタンティン・ブランクーシ、そしてダダやシュルレアリスムなどの作家が機械をモチーフにした作品を展示するほか、いくつかの新たな試みも行っている。

第1章「機械と人間:近代性のユートピア」の展示風景より、左からフェルナン・レジェ《女と花》(1926)、《木の根のあるコンポジション》(1934)、《鏡を持つ女性》(1920)
第1章「機械と人間:近代性のユートピア」の展示風景より、左からワシリー・カンディンスキー《複数のなかのひとつの像》(1939)、《支え無し》(1923)

 例えば、第2章「装う機械:アール・デコと博覧会の夢」では、1920年代を代表する装飾スタイル「アール・デコ」をたんなる装飾芸術でなく、産業技術や都市の発達という視点からとらえることを試みている。

第2章「装う機械:アール・デコと博覧会の夢」の展示風景より

 1925年、パリ現代産業装飾芸術国際博覧会(アール・デコ博)が開催され、工業生産品と調和する幾何学的な「アール・デコ」様式の流行が絶頂を迎えた。同章で紹介されているポスター作家A・M・カッサンドルがポスターの制作依頼を受けたノルマンディー号は、全長312メートルにおよぶ当時世界最大の豪華客船。カッサンドルによるポスターでは、船体の長さや豪奢な内装などの要素を切り捨て、船を正面から仰ぎ見る大胆な構図で描かれた。

 また、船内のダイニングルームには、ガラス工芸作家ルネ・ラリックによるシャンデリアや高さ4メートルのトーチランプなども設置。船内のテーブルに置かれたラリックによるランプや、ラリックの代表作と言える様々なガラスの香水瓶も本展で見ることができる。

第2章「装う機械:アール・デコと博覧会の夢」の展示風景より、ルネ・ラリックによるガラスの香水瓶

 第4章「モダン都市東京:アール・デコと機械美の受容と展開」では、1923年に発生した関東大震災からの復興により、急速に近代化が推し進められた日本のモダンデザインに注目。杉浦非水が1922年からのヨーロッパ遊学を経て昇華させたアール・デコ様式によってモダン都市・東京を表現したポスターや、古賀春江や河辺昌久などの前衛的な芸術家が機械的なモチーフを採り入れた多彩な作品が並んでいる。

第4章「モダン都市東京:アール・デコと機械美の受容と展開」の展示風景より、杉浦非水によるポスター
第4章「モダン都市東京:アール・デコと機械美の受容と展開」の展示風景より、右から古賀春江《現実線を切る主智的表情》(1931)、《白い貝殻》(1932)

 また、エピローグでは21世紀において機械をテーマに制作を行う3人のアーティストを紹介。自身のルーツであるアラブ世界の近代化を表現したムニール・ファトゥミの映像作品、官能的なロボット像を生み出してきた空山基による近未来的な立体作品、そしてデジタルとフィジカルとの境界線を問うラファエル・ローゼンダールによる大型のレンチキュラー作品が展示されている。

エピローグ「21世紀のモダン・タイムス」の展示風景より、ムニール・ファトゥミ《モダン・タイムス、ある機械の歴史》(2010)
エピローグ「21世紀のモダン・タイムス」の展示風景より、空山基の作品群
エピローグ「21世紀のモダン・タイムス」の展示風景より、ラファエル・ローゼンダールによるレンチキュラー作品

 担当学芸員の東海林は、AIやロボットなどの技術が日進月歩で進化している21世紀において、100年前に機械がいかに人間の身体や思想を変えていったのかを様々な芸術を通じて見ることは「非常に意味がある」とし、次のように話している。「多様な芸術や時代が交差する展覧会になっているが、我々の精神と共鳴する部分を探りながら本展を楽しんでいただけたら」。

編集部

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