WHAT MUSEUMで見る、コレクター・竹内真が築いてきた「心のレンズ」

東京・天王洲にある「WHAT MUSEUM」でコレクター・竹内真が収集した現代アートと家具の作品を中心に紹介する展覧会「心のレンズ」がスタートした。本展の見どころをレポートする。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、ピエール・ジャンヌレ「フローティング バックチェア」

 IT分野で活躍しているコレクター・竹内真が収集した現代アートと家具の作品を中心に紹介する展覧会「心のレンズ」が、東京・天王洲にある「WHAT MUSEUM」で開幕した。会期は2024年2月25日まで。

 約5年前から収集を始めたという竹内。本展ではそのコレクションのなかから、国内外のアーティストによる現代美術の作品33点と、ル・コルビュジエやピエール・ジャンヌレなどがデザインした家具33点が展示されている。

 本展の企画担当は開幕にあたり、これまで同館で開催されてきた高橋龍太郎や桶⽥俊⼆・聖⼦夫妻大林剛郎などのコレクション展と比べると、竹内は比較的に年齢が若いコレクターであり、コレクションの年数も短いので、「より身近に感じられるコレクターのひとり」だと話している。

展示風景より

 展覧会のエントランスでは、竹内にとって3点の「記念すべき作品」が紹介。竹内が深夜のオンラインオークションに参加して購入した1点目の作品となったパブロ・ピカソのエッチング作品《Couple, from La Magie Quotidienne》(1968)、若手アーティストを支援する思いで初めてプライマーギャラリーで購入した大久保紗也の絵画《nothing(man)》(2018)、作品の美しさに魅せられてコレクションした神楽岡久美の彫刻《Extended Finger No.02》(2022)が並んでいる。

 HALLエリアでは、ピエール・ジャンヌレがデザインした21脚の椅子からなるインスタレーションが大きな存在感を放つ。インドのチャンディガール都市計画のためにデザインしたこれらの椅子は、大量生産で計画を推進するために一部の生産は地元の職人に委ねられたという。個々の椅子から微妙な差を味わうことができる。

展示風景より、ピエール・ジャンヌレ「フローティング バックチェア」

 SPACE 3では、竹内が近年魅力を感じている抽象絵画の作品が集まっている。山口歴が初めてアルミパネルにストロークを表現したという《SHADEZ OF BLUE NO.2》(2022)や、大胆な表現と緻密な描写を両立させた北京出身のアーティスト・許寧(シュ・ニン)の絵画《Starting with a Tear - HISTORY》(2023)、カメラで撮影した映像やインターネットで見つけた映像をトリミングして構成したポーランド出身のヴィルヘルム・サスナルの大作《Untitled》(2022)などを楽しむことができる。

展示風景より、中央の壁面はヴィルヘルム・サスナル《Untitled》(2022)
展示風景より、左から許寧(シュ・ニン)《Starting with a Tear - HISTORY》(2023)、大山エンリコイサム《FFIGURATI #133》(2014-16)
展示風景より、左からジャデ・ファドジュティミ《Undeparted thoughts》(2022)、セクンディノ・ヘルナンデス《Untitled》(2022)

 「家具の存在により現代アートとの距離が近しくなる」と考える竹内。SPACE 4では、こうした家具と現代アートが共演する空間がつくられている。

 ひとつのコーナーでは、ピエール・ジャンヌレがデザインしたアームチェアとローテーブルが、紹介するまでもない巨匠ゲルハルト・リヒターイヴ・クライン、そして今年8月に惜しまれつつこの世を去ったミニマリスト運動の先駆者・桑山忠明の作品とともに展示。書斎を思わせるもうひとつのコーナーでは、ル・コルビュジエやジャン・プルーヴェ、シャルロット・ペリアンらによる家具が、フランシス・アリス、三島喜美代、元永定正、二代 田辺竹雲斎、上田勇児、リー・キット、浜名一憲らの作品とあわせて紹介されており、時空を超えた多様な演出が味わえる空間だ。

展示風景より、左からイヴ・クライン《Untitled Blue Monochrome (IKB317)》(1958)、ゲルハルト・リヒター《14.2.88》(1988)、ピエール・ジャンヌレ《トライアングル ローテーブル》《Xレッグアームチェア》、桑山忠明《Untitled (TK3647-1/2-'69)》(1969)
展示風景より、ル・コルビュジエやジャン・プルーヴェ、シャルロット・ペリアンらによる家具が、フランシス・アリスや三島喜美代などの作品とともに展示されている

 そのほか、このスペースではスターリング・ルビーとオスカー・ムリーリョによる力強い抽象絵画2点や、ドナルド・ジャッドのエッチング作品なども展示。続くSPACE 5では、キャンバスがフレームを飛び越えていくような小林正人の絵画《この星のモデル(ペア)》(2021)や、女性のシルエットからインスピレーションを得て曲線を生かした造形を持つオスカー・ニーマイヤーのロッキングチェア、そして掛井五郎、加藤泉、小西紀行の作品が展示されている。

展示風景より、左からスターリング・ルビー《TURBINE. RED RIDING HOOD.》(2023)、オスカー・ムリーリョ《manifestation》(2021)
展示風景より、左から小林正人《この星のモデル(ペア)》(2021)、オスカー・ニーマイヤー《リオ ロッキングチェア》
展示風景より、左から掛井五郎《パリ郊外》(1990)、加藤泉《Untitled》《Untitled》(いずれも2019)

 竹内は本展の開幕に際して次のような言葉を寄せている。「『レンズ』というタイトルの通り、見る人の心のなかにある記憶や経験によって見えてくる風景も違う。複数人で話し合いながら、見えなかったものが見えてくるようになるのは抽象絵画の力だと思い、本展はそのような機会になれば」。ひとりのコレクターが築いてきた現代アートと家具のコレクションを通じ、独自な風景を想像してみてはいかがだろうか。

竹内真とヴィルヘルム・サスナル《Untitled》(2022)

編集部

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