公益財団法人大林財団の理事長であり、国際芸術祭「あいち2022」の組織委員会会長も務める大林剛郎。そのコレクションを紹介する展覧会が、9月25日に東京・天王洲に位置する現代美術のコレクターズミュージアム「WHAT MUSEUM」でスタートした。
本展では、「安藤忠雄 描く」「都市と私のあいだ」「Self-History」という3つのテーマに沿った展示を通し、大林コレクションの変遷に迫るとともに、その収集作品群を多角的に紹介している。
「安藤忠雄 描く」では、同コレクションの出発点である建築家・安藤忠雄の平面作品に焦点を当てる。2000年の上海ビエンナーレで制作された長さ10メートルの《ベネッセハウス-直島コンテンポラリーアートミュージアム》(2000)のドローイングをはじめ、日本初公開となる初期建築作品のスケッチや、未完のプロジェクト《宇都宮プロジェクト》や《中之島プロジェクトⅠ(大阪市役所)》のシルクスクリーンなどの平面作品15点が、フランス人アーティストのグザヴィエ・ヴェイヤンが安藤忠雄をモチーフにした彫刻作品とともに展示されている。
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建築に焦点を当てた「安藤忠雄 描く」と、現代美術を展示する「Self-History」をつなぐのは、次の「都市と私のあいだ」セクションだ。都市を形成する様々な要素を9名のアーティストがそれぞれの視点で切りとった14点の作品が、土木や都市基盤など大きなスケールの作品から建築内部のインテリアや模型など少しずつスケールが小さくなっていくようなかたちで展示されている。
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例えば、畠山直哉の「untitled / Osaka」シリーズは時間とともに移り変わる都市の変遷の様子を切り出したもの。ルイザ・ランブリの「Untitled(Barragan House)」シリーズでは、建築家のルイス・バラガンが設計したバラガン邸での時間の変化を私的な経験とともに映し出しており、トーマス・デマンドの《Museum H 64》(2015)では、建築家・妹島和世による建築模型を被写体としている。
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続く「Self-History」では、大林がこれまでに収集した約850点の現代美術作品コレクションから、その集大成とも言える約40作家の作品を紹介。
展示の冒頭部分であるスペースAは、大林コレクションの「前史」とも呼ばれるエリア。ここで、大林の父が収集したルーチョ・フォンタナやジャン・アルプ、吉原治良の作品や、大林が子供の頃に父がアメリカ土産として買ってきたジャクソン・ポロックのジグソーパズルを再現した資料を見ることができる。
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このエリアでは、大林コレクションの「現在」を象徴する、トーマス・デマンドやライアン・ガンダーによるコンセプチュアルな作品や、佐藤允の《大林剛郎の肖像(宇宙)》(2021)をはじめとする、アーティストに作成制作を依頼したコミッションワークも並んでいる。
スペースBでは、ドイツ現代写真の起点ととらえられるベルント&ヒラ・ベッヒャーの《Water Towers》(2010)や、ベッヒャーから学んだトーマス・ルフやカンディダ・へーファーのコンセプチュアルな作品、ダニエル・ビュレンやドナルド・ジャッド、ダン・フレイヴィンなど1960年代以降に活躍したミニマリズムの作家の作品、そして桑山忠明や杉本博司などこれらの美術的潮流と関係の深い日本人作家の作品を紹介している。
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スペースCには、主に人体表現を扱う作品が集結。五木田智央やミヒャエル・ボレマンスの絵画作品から、それぞれイブ・クラインとアリギエロ・ボエッティの作品を参照した森村泰昌とギャビン・タークの作品まで、従来から美術の主要な題材である人体に関する新たな表現の可能性を知る機会となる。
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そして最後のスペースDでは、コンセプチュアルな作品が集まっている。ジョナサン・モンク、トレイシー・エミン、ローレンス・ウィナーが言語そのものを素材にする作品や、0歳から100歳までの101人のポートレート写真で構成したハンス=ペーター・フェルドマンの《100 Jahre(One Hundred Year)》(1998-2000)など、人間の内面や感情について考えられる展示となる。
安藤忠雄の建築に関する平面作品からミニマリズムやコンセプチュアル・アートまで、大林コレクションを構成する多様な表現形態の作品を堪能したい。
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