一般社団法人アート東京が主催する「art stage OSAKA 2023」が、大阪・中之島のグランキューブ大阪で開幕した。会期は9月3日まで。
昨年、初開催となったart stage OSAKA。大阪でもっとも長い歴史を持つアートフェア「ART OSAKA」や、大阪関西国際芸術祭に関連した「Study:アート&クリエイティブフェア」など、大阪で様々なアートフェアが開催されるなか、後発となる本フェアは昨年の一般的なギャラリー出展型のアートフェアから「テーマに沿って集められた作品を展覧会形式で展示し、それを購入できる展覧会」という性格のものとして大きく姿を変えた。
開催にあたってアート東京の代表理事を務める來住尚彦は次のようにコメントした。「昨年は一般的なアートフェアとして実施したが、今回はまったく異なる形式で開催することになった。25年の大阪万博を見据え、何をやるべきかを考えた結果、こうした企画展となった。フィジカルとデジタルという、アートマーケットにおいて今後の課題となっていく問いをテーマに据え、デジタルアートの売上の増加といった今後のアートマーケットの拡大も視野に入れながら、このアートフェアを企画した」。
「art stage OSAKA 2023」は、おもに3つのセクションで構成されている。ひとつめは遠藤水城がディレクターを務める、近代化と情報化が同時に進むアジア10ヶ国のアーティストの作品を展示する「World Art Osaka」。ふたつめは高橋洋介がキュレーターを務め、戦後日本の政治と芸術の関係が現代にどのように引き継がれているのかを考察する「Japanese Contemporary」。そして3つめはNFTをはじめとするデジタルアートを中心に展示する「New Media」だ。
まずは、「World Art Osaka」のセクションから見ていきたい。「Painting Now Redux ― アジアの『いま』をめぐる」という副題を持つ本セクションは、アジアのアーティストの作品のなかでも、とくに絵画に絞って作品が選定されている。まず、会場で目を引くのは、タイ・バンコク生まれのアーティスト、コラクリット・アルナーノンチャイの巨大な作品、《History Painting(Poetry Floor2)》(2016)だ。燃やした素材と複雑なペイントが織りなすそのテクスチャは、いま米国で活動する作家の目から見た、資本主義の大きなうねりが表現されているようだ。
タイのブスイ・アジョウは少数民族・アカ族の職人の家に生まれ、その文化や歴史、伝説、風習などをモチーフに絵画や彫刻を制作してきた。本フェアでは、女性として、母として、アカ族の物語を再考したシリーズを展示する。
ほかにもコラクリット・アルナーノンチャイ(タイ)、ティン・リン(ミャンマー)、マハラクシュミ・カンナパン(シンガポール)、ファディラ・カリム(マレーシア)、ホンサー・コッスワン(ラオス)、コア・ファム(ベトナム)、ロジト・ムルヤディ(インドネシア)、ルチカ・ウェイソン・シン(インド)が出展している。
「Japanese Contemporary」は、「すべてが計算される世界でまだ祈るべきものは残されているのか?」をテーマに、日本を中心とした現代美術作品を展示している。
会場の床で動き回るプラスチック製の日用品とモーターを組み合わせた作品群は、安西剛の《Unsettled》だ。不規則でぎこちない動きで這いまわりながらも、それらはときどき偶然の同期を見せたり、あるいはぶつかったりする。まるで小さな社会をカラフルな彫刻たちが構成しているかのようだ。
たかくらかずきの《みえるもの あらわれるもの いないもの》は、複数のブラウン管とプロジェクターを用いたインスタレーションだ。作品の中央にあるモニターをコントローラーで操作し、組み合わせる単語を選んで五・七・五の俳句をつくることができる。俳句を生成すると、操作者の背後のモニターにAIが俳句の意味から汲み取ったイメージが現れる。デジタル時代の黎明期にゲームなどで多用されたドット絵という懐かしいイメージを媒介に、新たな時代の創作を考えさせる作品だ。
Shino Yanaiの《Blue Passage》は東京2020夏季オリンピックに先駆けて制作された作品。ナチスに追われピレネー山脈で自決したヴァルター・ベンヤミンの足跡を、聖火を持ってたどり直す記録映像で、ひとりの思想家が歴史に翻弄されるさまを、国家行事としての五輪との関係性においてとらえた作品となっている。
ほかにも雨宮庸介、ユージーン・スタジオ、藩逸舟、加茂昂、KYOTO INTERCHANGE[金氏徹平/田中功起]、落合陽一などが出展している。
「New Media」でも、多様な試みが行われている。2023年6月に代官山で開催された「Proof of X」がこの会場でも展開され、NFTやスマートコントラクトを中心としたブロックチェーン技術を用いた国内外の作品が紹介されている。ブロックチェーンによってオフチェーン作品(普通の作品)を生み出すエキソニモ《Proof of Non-Existance》や、アーティストの意思に代わりミンターの入力がジェネラティブ・アートをつくり出す北千住デザインの《64 Rectangles》などが展示されている。
ほかにもNFTアートのプラットフォームを紹介する「FAT Collection」や、NFTをはじめとする様々なデジタルアートを展示する「NFT X CREW」といった、テーマ別の企画が行われている。とくに注目したいのは個人アニメーション作家の出展だ。「NFT X CREW」においてはmae、安田現象、Wabokuが、大阪芸術大学のブースではKomugiko2000が出展しており、こうしたSNSやミュージックビデオを中心に人気を集める個人アニメーション作家がアニメとともにフィジカルな作品を制作する動向は、アートマーケットの新たな潮流として注目したいところだ。
様々なアートフェアが開催されるようになった関西において、キュレーションを効かせた展覧会形式という新たな提案を行った「art stage OSAKA 2023」。関西の新たなアートの潮流として、注目が集まりそうだ。