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不可視の「かたち」を受け止める身体への意識。ICCが着目する「ものごとのかたち」

NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で、「ICC アニュアル 2023 ものごとのかたち」が開催されている。本展は、拡張された現実としての仮想世界の興隆とともに変化してきた「ものごとのかたち」に着目し、その表現について多様な作品から考察する試みだ。会期は2024年1月14日まで。

展示風景より、東京大学 舘知宏研究室 × 野老朝雄 × [    ]《つながるかたち展 2.5》

 NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で、「ICC アニュアル 2023 ものごとのかたち」が開催されている。会期は2024年1月14日まで。

 「ICC アニュアル」は、同館で多くの人に親しまれた「オープン・スペース」展(2006〜2021)の役割やコンセプトを継承しながら、昨年から開催されている長期展示。今回は、現実の拡張として仮想世界が浸透しつつあるなか変化する、物事や出来事のかたち、記憶やふるまいに関する表現が紹介されている。

展示風景より、菅野歩美《未踏のツアー》

 ギャラリーBを入ってすぐ右手に見える大型のスクリーンと頭上のモニターは、時里充による3DCGアニメーション《ハンドメイドムーブメント season1 大体の事柄は布に覆われてしまっている》(2022)を映し出している。映像のなかでは2体のパペットが対話しているが、そこに明確な文脈のつながりや起承転結は見つけられない。本作は、「他者」のひとつとしてAIやメディア・テクノロジーを採用し、無意識や偶然といった作者の意思を離れた要素を取り入れて成立しているという。

 その背後には、放射状に構成されたスクリーンが設置されている。菅野歩美による映像インスタレーション《未踏のツアー》は、対になった2つの画面に3DCGを用いて実在する街を想像してつくった映像と実写映像を流した作品で、そのコントラストがどこかファンタジックかつ非日常的で、ときに奇妙な感覚を鑑賞者に与える。

展示風景より、津田道子《東京仕草》

 その奥では、和室のような空間を見つけることになる。これは津田道子の《東京仕草》という作品で、映画『東京物語』(1953)に代表される小津安二郎監督作品に登場する女性の仕草に着目して制作された、映像インスタレーションが楽しめる。足を踏み入れると、襖や障子らしきものにすり足や正座など、映画のなかの女性と同じ動作の影が映っていることがわかるだろう。

 会場を入ってすぐの空間から奥に進むと、東京大学 舘知宏研究室 × 野老朝雄 × [    ]「つながるかたち展 2.5」にたどり着く。白く輝く展示室は、有機的かつ無機的な空気がある。掲示された説明とともに作品を眺めるにつれて、単純なかたちが一定のルールでつながって全体を構成する「個と群」の原理を体感できることだろう。

展示風景より、東京大学 舘知宏研究室 × 野老朝雄 × [    ]《つながるかたち展 2.5》

 会場には、伊阪柊の3DCGによる映像作品シリーズ「Sp-s」の最新作《The Spumoni》や、Natura Machina(筧康明+ミカエル・マンション+クアンジュ・ウ)による熱音響現象を利用したインスタレーション作品シリーズ最新作となる《Soundform No.4》など注目の作品が多い。

 そんな本展を満喫するためには、少しだけ時間を気にして鑑賞するのが良いだろう。整理券を受け取って体験できるevalaの作品は、必見ならぬ必「聞」の作品。無響室という限定された環境でしか体験できない、​​《大きな耳をもったキツネ》全4作品と、フィールド・レコーディング音源を含んだ《Our Muse》の再展示が行われている。波のように音に包まれる経験をするチャンスをお見逃しなく。

evala《大きな耳をもったキツネ》2013年
撮影:木奥恵三
写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

 もうひとつ時計に注意して楽しみたい作品が、グレゴリー・バーサミアンの《ジャグラー》 。毎時30~40分のあいだだけ見られるというこの作品は、本当にジャグリングをしているように見えるが、投げられる物体は大きな円筒形のフレームの周囲に等間隔でとりつけられており、暗い空間を高速で回転しているなか点滅するストロボライトに照らされて、パラパラマンガのようにひと続きの動きが分割され、実在しない「動いている」光景に見えるようになっている。本作はICCが制作委嘱したコレクション作品で、バーサミアンにとって重要なテーマである「人間と機械の間にある希望と葛藤」が表現されているという。

 会場内ではこのほかにも、小光によるオムニバス形式のインタラクティヴ・アニメーション作品《Five Years Old Memories》の展示や、前期はヒラヤマナツホ、後期は武田萌花の作品紹介を行うコーナー「エマージェンシーズ!」などが楽しめる。

展示風景より、伊阪柊《The Spumoni》

 本展はなお、無料エリアの5階ロビーと4階のエントランス・シアターにもまたがっている。無料エリアでは、津田道子、東京大学 舘知宏研究室 × 野老朝雄 × [    ]の展示をギャラリーBから引き続き楽しめるほか、展示リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICCによるプロジェクト「触覚でつなぐウェルビーイング」や岩井俊雄の《マシュマロモニター》も鑑賞・体験可能。さらに、4階のシアターでは金土日祝に出品作家による関連作品の上映も実施されており、こちらも併せて楽しみたい。

 現実(リアル)と仮想(バーチャル)という対比さえ問い直されている昨今において、不可視の事象はどのように表されるのか。同館の軸である「コミュニケーション」をテーマに、多様な表現から現在と未来を見つめる展示となっている。

展示風景

編集部

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