ARやVRの総称であるXR(クロスリアリティ)。この技術を用いた作品を東京・渋谷の各所で展示する都市型展覧会「AUGMENTED SITUATION D」が開催されている。会期は3月21日まで。
本展はメディアアーティストのゴッドスコーピオン、キュレーターの吉田山、XRの企画プロデュースを行う浅見和彦の3名のプロジェクトチームによるもの。XRだけではなく、従来の彫刻作品や平面作品をXR技術と組み合わせた拡張性のある展覧会で、アーティストに留まらず、建築家やファッションデザイナー、音楽家とも連携をする。参加作家はALTEMY、ANY、ゴッドスコーピオン、GROUP、KODAMATACHI、マルクス・ゼルグ、サイモン・ウェッカート、suzuko yamada architects。
多くの作品はスマートフォンアプリ「STYLY」を使用することで見ることができる。作品が設置されている(位置情報が登録されている)場所に行き、パンフレットにあるQRマーカーを読み取ることで、コンテンツを鑑賞することが可能だ。作品の展示場所は公園通りのシビック・クリエイティブ・スペース・東京(CCBT)や渋谷フクラス1階のshibuya-sanで配布されているハンドアウト、あるいは作品情報が記載されたグーグルマップで確認することが可能だ。
本展で見ることができるいくつかの作品を紹介したい。まずは、今回の展覧会のハブといえるCCBTで見られる作品だ。この場所でメディア・アーティストのゴッドスコーピオンは、VRの《無始無終》とARの《常世隠世》のふたつの作品を展示している。
《無始無終》《常世隠世》は、渋谷の猿楽町に6世紀につくられた古墳「猿楽塚」を作品世界の依代とした作品。《無始無終》は、円状のスペースでVRゴーグルをつけて鑑賞する作品で、能の『卒塔婆小町』を原型とした15分ごとに円環するVR作品だ。いっぽうの《常世隠世》は、スマートフォンをかざすことで、現在位置から白い尾を引く蛇のような立体が現れる。
同じくCCBTの展示室では、ドイツ出身のアーティスト、マルクス・ゼルグによるインスタレーション《THE COSMIC GARDEN (seed of the seed)》が展開。本作はそのすべての要素がアルゴリズムによって生成されたフラクタルパターンから生み出されたという。仮想空間上で生まれた複雑に関連するシステムが、現実の立体物として具現化したことで、現実世界を成立させている要素の複雑さを見る者に問いかける。
井上岳、大村高広、 齋藤直紀、棗田久美子、aによる建築コレクティブ・GROUPと作曲家の波立裕矢による《渋谷の手入れ》は、屋外で見ることができるAR作品。渋谷の高さおよそ22メートルの急な傾斜の谷地に着目したGROUPは、この地形に沿ってかつて流れていた渋谷川、隠田川、宇田川(いずれも暗渠化)を発想源に、各作品を結びつける水の流れをARで表現した。
渋谷スクランブル交差点をはじめとした、渋谷各所の交差点を中心に展開されているAR作品《Weaving Behavior》は、津川恵理が代表を務めるALTEMYによるもの。建築などをキーワードに人の感性に訴える作品を手がけてきたALTEMYによる本作は、参加者一人ひとりの身体の動きによって、巨大な建築をデジタル空間に建設するものだ。スマートフォンを動かすことでAR上に描かれる軌跡が、ほかの鑑賞者の描いた軌跡と重なり構造物をつくりだす。
渋谷フクラス1階のshibuya-sanではサイモン・ウェッカートが《A(i)R Pollution》を展開。大気汚染センサーを利用したウェブサービスを接続して周囲の環境のCO2の量を測定、その結果を植物の呼吸としてAR上で可視化している。
また、渋谷スクランブル交差点では本展のワークショップに参加した子供たちによる作品が交差点にARで浮かび上がる「Scramble Crossing Program」も見ることができる。
本展のキュレーションを行った吉田山は、本展について次のように語った。「ARが場所を限定して展開できるようになったことで、作品を街の各所に設置する『展覧会』が可能となった。今回、建築系の作家が多いのは、変わるものと変わらないものが複雑に交錯する渋谷という街を体現するためには、建築的な視点が不可欠だと考えたからだ」。
再開発も大詰めを迎える渋谷の街を、XR作品をたどりながら歩くことで、鑑賞者の身体感覚とともにとらえようとする、意欲的な展覧会となっている。