日本最大級の都市型ロック・フェスティバル「SUMMER SONIC」、通称「サマソニ」が今年もZOZOマリンスタジアム、幕張メッセにて開催される(8月20日・21日)。そのライブ会場にて、文化庁が音楽とアートを融合させた分野横断的な取り組み「Music Loves Art in Summer Sonic 2022」を実施。日本のアーティストを世界トップレベルに育てていくことがその目的のひとつだ。
この取り組みには小林健太、金氏徹平、レアンドロ・エルリッヒ、細倉真弓、イナ・ジャンという5人の多国籍な現代アーティストが参加している。本企画のキュレーターである山峰潤也は「いままでアートに触れる機会がなかった人々に響かせることが目的。国のプロジェクトとして日本の感性を伝えるとともに、そこに共感する海外のアーティストとも共鳴している」と話している。
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まず、サマソニのメインゲートを華やかに飾るのは東京、湘南を拠点に活動するアーティスト・小林健太の《フラグメンツ・オブ・メモリー, 2022》だ。小林は東京都心で撮影した風景写真を破片として散りばめたゲートを制作。音楽イベント特有の、駆け抜ける疾走感やリズムをシャッターストロークで表現している。
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それぞれのパーツには複数の画像がオーバーラップするように積層している。もっとも表面に近い層はミラー加工がなされているため、鑑賞者が作品のなかに映り込む仕様になっており、小林は作品のなかに混ざっていくような感覚を味わってほしいと語る。
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マリンスタジアムの会場内を進むと見えてくるのが金氏徹平の作品《Hard Boiled daydream (Sculpture/Spook) #A.B.C》。日本の文化を新たな視点からとらえ、マンガのなかで見たことがあるようなモチーフを使用した、軽やかでポップな立体作品だ。その作品の大きさから、まるで時空間がずれたような面白い感覚を鑑賞者にもたらしてくれる。会場には大中小3つのオブジェが整列しているので、様々な角度から鑑賞してみるのもいいだろう。
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サマソニの面白いポイントは、ビーチにもステージが設置されているところだ。ビーチへ向かうと、金沢21世紀美術館の恒久設置作品《スイミング・プール》でも有名なアルゼンチンのアーティスト、レアンドロ・エルリッヒの作品に出会うことができる。その作品《Traffic Jam 交通渋滞 2022》は、ビーチの砂で40台もの車の交通渋滞を表現した巨大な作品だ。「未来の視点から現代を見たときに、このような遺跡が発掘されるのではないか?」という想像のもと制作されており、気候変動の問題にも着目した作品と言える。
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サマソニのもうひとつの会場、幕張メッセにも作品が展示されている。写真家の細倉真弓はユースカルチャーに関心を持ち、ポートレートの方法で撮影した映像作品《I can (not) hear you 2019》を制作した。ミュージシャンやダンサー、画家など様々なバックグラウンドを持つ人々が、自身の好きな音楽をイヤホンで聞いてリズムに乗っている様子を撮影。こちらに音楽は聞こえないが、一人ひとりの動きから個性が表面上に現れている。音楽を通じて新たなポートレートのかたちを提示する作品だ。
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ニューヨークを拠点に活動する韓国出身のアーティスト、イナ・ジャンは、幕張メッセの長い空間を生かしたコラージュ作品《Voyages - たび 2022》を制作した。この作品は、韓国の漢江やニューヨークのイーストリバーを撮影した写真を様々な手法でコラージュしており、音楽の流れを表現している。イナ・ジャンは「人が音楽を聞くときに、色々なことを思い出したり考えたりするように、この作品を見てもらえたら」と話す。その作風はさながらトラックをミキシングするDJのようだ。
なお、「Music Loves Art in Summer Sonic 2022」主催である文化庁長官の都倉俊一は、取材のなかで「巨大なロックフェスにて音楽とアートを融合する初めての試み。日本の文化芸術は、音楽やアート、文化遺産などの分野ごとだけでなく、領域を横断しながら取り組むことで、新たな価値を創造することができると考えている。今回のイベントを起爆剤として国内アーティストを世界レベルにあげつつ、日本の文化芸術産業をより大きな規模に発展させることで、世界により力強く発信していきたい」と、本展に対する強い意欲をのぞかせている。