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イギリス絵画にも注目。スコットランド国立美術館の名品から西洋絵画の発展をたどる

ラファエロ、レンブラント、モネなど西洋絵画の巨匠たちの作品を数多く所蔵するスコットランド国立美術館。同館のコレクションを通して西洋絵画史の変遷をたどる展覧会「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」が東京都美術館でスタートした。

展示風景より、左はジョシュア・レノルズ《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》(1780-81)

 世界有数の西洋絵画コレクションを有するスコットランド国立美術館。そのコレクションから、ルネサンス期から19世紀後半までの西洋絵画史を彩る巨匠たちの作品を紹介する展覧会「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」が東京都美術館で開幕した。

 スコットランド国立美術館は、1859年にエディンバラの中心部に設立。開館当初は、作品購入の予算を与えられていなかったようだが、地元の名士たちの寄贈や寄託などによってコレクションの拡充を続け、現在はラファエロ、エル・グレコ、ベラスケス、レンブラント、ブーシェ、スーラ、ルノワールなどの巨匠たちの作品を所蔵する世界最高峰の美術館のひとつとなっている。

会場入口

 本展では、そんな巨匠たちの油彩画、水彩画、素描など約90点が紹介。担当学芸員・髙城靖之によると、スコットランド国立美術館ではイングランドやスコットランドの優れた作品も多数収蔵されているのが大きな特徴であり、本展はそのような作品を西洋絵画の流れのなかで紹介するような構成となっているという。

 展覧会は、プロローグとエピローグに加え、「ルネサンス」「バロック」「グランド・ツアーの時代」「19世紀の開拓者たち」といった時代ごとに分けられた4章で構成されている。

 第1章「ルネサンス」では、フィレンツェ、ヴェネチア、ローマを中心としたルネサンス時代の絵画や素描を紹介。ラファエロやティツィアーノ、パルミジャニーノなどの希少なデッサンに加え、芸術家に求められた役割の幅広さやパトロンの嗜好の多様性を示したパリス・ボルドーネなどの世俗的な作品や、この時代の芸術の国際的なつながりを示すものとしてエル・グレコの油彩画《祝福するキリスト(「世界の救い主」)》(1600頃)などが並んでいる。

展示風景より、左からパオロ・ヴェロネーゼ《守護聖人聖アントニウスと跪く寄進者》(1563頃)、パリス・ボルドーネ《化粧をするヴェネツィア女性たち》(1550頃)
展示風景より、右はエル・グレコ《祝福するキリスト(「世界の救い主」)》(1600頃)
展示風景より、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ《三つの人体の構成》(1550頃)

 第2章「バロック」では、従来の世界観を覆そうとした17世紀のヨーロッパの革新的な画家たちに注目。スペインの巨匠のひとりであるベラスケスが19歳のときに描いた自然主義絵画の傑作《卵を料理する老婆》(1618)や、聖書や神話の登場人物に深い人間性を与えたレンブラントの《ベッドの中の女性》(1647)、そしてルーベンスの《頭部習作(聖アンブロジウス)》(1618頃)、アンソニー・ヴァン・ダイクの《アンブロージョ・スピノーラ侯爵(1569-1630)の肖像》(1627)など、数々の繊細な肖像画が強い印象を残している。

展示風景より、ディエゴ・ベラスケス《卵を料理する老婆》(1618)
展示風景より、レンブラント・ファン・レイン《ベッドの中の女性》(1647)
展示風景より、左からアンソニー・ヴァン・ダイク《アンブロージョ・スピノーラ侯爵(1569-1630)の肖像》(1627)、ペーテル・パウル・ルーベンス《頭部習作(聖アンブロジウス)》(1618頃)

 18世紀、イギリスのコレクターたちが美術品の購入や文化的教養を深めるため、「グランド・ツアー」と呼ばれる大規模なヨーロッパ旅行を行った。また18世紀は、パリ、ロンドン、ヴェネチアなどの都市で、芸術的才能が開花した時代でもあった。第3章「グランド・ツアーの時代」では、このふたつのテーマを中心に作品を紹介している。

展示風景より、右はフランソワ・ブーシェ「田園の情景」の3部作(1762)

 「田園の情景」と題された、18世紀半ばのフランス画壇に君臨したフランソワ・ブーシェの牧歌的な大作の3部作や、18世紀のイギリスの三大肖像画家と称される、ゲインズバラの《ノーマン・コートのセリーナ・シスルスウェイトの肖像》(1778頃)、レノルズの《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》(1780-81)、ラムジーの《貴婦人の肖像(旧称「フローラ・マクドナルドの肖像」)》(1752)、そして当時のイギリスのパトロンや旅行者にとって重要な目的地であったイタリア・ヴェネチアを描いたグアルディの風景画などが、同章のハイライト作品だ。

展示風景より、ジョシュア・レノルズ《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》(1780-81)
展示風景より、左からフランチェスコ・グアルディ《ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂》《ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂》(いずれも1770頃)

 第4章「19世紀の開拓者たち」では、スコットランドの画家、グラントとレイバーンによる肖像画大作から、イギリスの風景画の革新者とも言えるコンスタブルとターナーによる印象的な作品、そしてコロー、ブータン、スーラ、シスレー、モネ、ゴーガンなど、革新的な表現を網羅。19世紀の西洋絵画における題材や画風の変遷をたどることができるだろう。

展示風景より、左からフランシス・グラント《アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)》(1857)、ヘンリー・レイバーン《ウィリアム・クルーンズ少佐(1830年没)》(1809-11頃)
展示風景より、左からジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《トンブリッジ・ソマー・ヒル》(1811)、ジョン・コンスタブル《デダムの谷》(1828)
展示風景より、左からジョルジュ・スーラ《「アニエールの水浴」のための習作》(1883頃)、アルフレッド・シスレー《シュレーヌのセーヌ川》(1880)
展示風景より、左からエドガー・ドガ《踊り子たちの一団》(1898頃)、ポール・ゴーガン《三人のタヒチ人》(1899)

 エピローグで展示されるアメリカ人画家フレデリック・エドウィン・チャーチの記念碑的な作品《アメリカ側から見たナイアガラの滝》(1867)も、本展の特筆すべき作品だ。ヨーロッパのパブリックコレクションにおいてチャーチの唯一の大作であるこの作品は、アメリカで財を成したスコットランド人のコレクターによって母国のスコットランド国立美術館に寄贈されたもので、前述の地元名士たちの寄贈などによって基礎を築いたスコットランド国立美術館のコレクションを象徴する作品のひとつとも言える。

展示風景より、フレデリック・エドウィン・チャーチ《アメリカ側から見たナイアガラの滝》(1867)

 こうしてスコットランドやイングランドの作品にスポットライトを当てながら、ルネサンス期から19世紀後半までの西洋絵画史をたどる本展。髙城は、「西洋絵画のなかで英国絵画がどのように影響を受けながら発展していったのかに注目しながらご覧いただけたら」と語っている。

 なお同展は、東京都美術館での開催後、神戸市立博物館と北九州市立美術館にも巡回予定となっている。

編集部

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