第25回TARO賞は吉元れい花に決定。史上初の刺繍作家

岡本太郎の遺志を継ぎ、次代のアーティストを顕彰する岡本太郎現代芸術賞(通称「TARO賞」)。その第25回の受賞者が発表された。大賞である「岡本太郎賞」は刺繍作家の吉元れい花が受賞した。

「岡本太郎賞」を受賞した吉元れい花

 岡本太郎の精神を継承した岡本敏子によって創設され、毎年、自由な発想で芸術の新しい側面を切り開くアーティストを顕彰してきた「岡本太郎現代芸術賞」(通称「TARO賞」)。その第25回の受賞者が2月18日、川崎市岡本太郎美術館で発表された。

 これまで500名を超えるアーティストたちを顕彰してきたTARO賞。今回は昨年をやや下回る578点の応募があり、そのなかから24組が入選。大賞となる岡本太郎賞は吉元れい花が、岡本敏子賞は三塚新司が受賞した。審査員は椹木野衣、山下裕二、和多利浩一、平野暁臣(岡本太郎記念館館長)、土方明司(岡本太郎美術館館長)の5名が務め、吉元には賞金200万円が、三塚には100万円が贈られた。今後、東京・南青山にある岡本太郎記念館で両名の作品展示が行われる。

入選作家と審査員

岡本太郎賞受賞:吉元れい花

 吉元は大阪市出身、東京在住。レビュウダンサーを経て、結婚を機に刺繍を始め、約35年わたり刺繍作家として活動してきた。2017年に脳出血によって入院した際、夢に岡本太郎が現れ、それを契機に岡本太郎現代芸術賞に向けて制作に取り組んできたという。受賞に際しては、「糸は自分にとって細胞のような感覚。ひと針ひと針、心を込めてこれからも縫い続けていきたい」と語っている。

 後遺症としていまも左半身に不自由が残るなか、本展では縦横5メートルにおよぶ壁面を数々の刺繍作品で埋め尽くし、ひとつのインスタレーション《The thread is Eros, It's love!》として構成。吉本にとっては、これが初のインスタレーションになったという。

展示風景より、吉元れい花《The thread is Eros, It's love!》

 刺繍には花や人物、言葉が散りばめられており、縫うことでコロナを吹き飛ばしたいという強い思いを込めた。またこの作品では本来見せることがない刺繍の裏面も鑑賞者に向けられている。吉元は、「刺繍の裏面は神聖なもので、見せるのはタブー。恥部だけれども、あえてそこも大切にしたいと考えた。刺繍は美しさで語られるが、美しくなければいけない理由はない。自己表現の場としてあってもいい」と語る。

展示風景より、吉元れい花《The thread is Eros, It's love!》
展示風景より、吉元れい花《The thread is Eros, It's love!》

 審査員の椹木は、吉元の作品について「極めてパワフル。宇宙にもつながる突き抜けたものを感じさせる。岡本太郎の『芸術は爆発だ』にふさわしい」と評価。「刺繍の裏側を見ると、糸と針の力で命の蠢きが結集していることがよくわかる」としている。

展示風景より、吉元れい花《The thread is Eros, It's love!》

岡本敏子賞受賞:三塚新司

 いっぽう敏子賞を受賞した三塚は1973年生まれで、99年に東京藝術大学油絵科に入学。その後、同大先端芸術表現科に転入し、在学中からNHKの子供番組に放送作家として携わってきた。

  2018年より作家としての活動を開始した三塚は今回、バナナの皮を巨大なバルーンによって表現した《Slapstick》を発表。三塚はコロナ禍を契機に、これまで抱いていた「人間は豊かさとリスクを交換しているのではないか」という疑問を作品化するため、バナナを選んだという。マンガやアニメーションなどで、人物を転倒させる道具としてもたびたび使われてきたバナナの皮。巨大なバナナの皮は、世の中の価値観など巨大な存在を転倒させる、という意味を含んでいる。

敏子賞を受賞した三塚新司
展示風景より、三塚新司《Slapstick》

特別賞は4名

 なお今回、特別賞に選ばれたのは4組。書店を模したインスタレーションを手がけた伊藤千史、速記をテーマに様々な速記関係者と協働した作品を展開する硬軟+stenographers、ディストピアのような世界を油絵によって構成する藤森哲、巨大なピカソ像を中心にインパクトのある彫刻群を発表した村上力が受賞した。全24作家の作品が揃う「岡本太郎現代芸術賞展」は5月15日まで行われる。

展示風景より、伊藤千史《書店レジ前の平台》
展示風景より、硬軟+stenographers《速記美術のエレメント》
展示風景より、藤森哲《往日後来図》
展示風景より、村上力《異形の森》
展示風景より、GengoRaw《蒼頡 AI》
展示風景より、青山夢《弥勒モラトリアム》
展示風景より、中澤瑞季《Forest》
展示風景より、野々上聡人《Drawing》
展示風景より、角文平《Fountain》

編集部

Exhibition Ranking