10万点を超える日本美術コレクションを有するボストン美術館。同館所蔵の武者絵や⼑剣が⾥帰りする展覧会「THE HEROES ⼑剣×浮世絵-武者たちの物語」が、東京・六本木にある森アーツセンターギャラリーで開幕した。
1870年代に開館したボストン美術館は、世界最⾼⽔準の日本美術コレクションを含む50万点以上の美術品を所蔵している。今回の展覧会では、その膨大な浮世絵コレクションからすべてが日本初出展となる武者絵118点と、武者絵と共通のイメージがデザインされた鐔(つば)27点を通し、江戸の庶民の人気を博した武者絵の世界を紹介。また、同館の刀剣コレクションから厳選した名刀や、国内所蔵の刀剣も特別出品されている。
展示会場は、主に「神代の武勇譚」「平安時代の武者」「源平時代の英雄」「鎌倉時代の物語」「『太平記』の武将たち」「川中島合戦」「小説のヒーローたち」「ボストン美術館の名刀」のセクションによって構成。浮世絵・刀剣・鐔を通し、武者絵の物語を時代順に紐解く。
18世紀以降、様々な時代の武勇譚を集めた武者絵本が出版されるようになった。本展の冒頭部では、日本神話において天地開闢から神武天皇の前までの時代を指す神代の武勇譚に注目。天照大神の弟・素戔嗚尊(すさのおのみこと)の八岐大蛇(やまたのおろち)退治を題材にした歌川国芳の「武勇見立十二支 辰 素戔雄尊」や、出雲伊麿(いずものいまろ)が鰐を刺し殺す様子が描かれた「出雲伊麿」、そして初期の古墳出土の刀剣「直刀 無銘」などを見ることができる。
平安時代の10〜11世紀には、武芸に秀でた武士の集団が形成され、とくに清和源氏と桓武平氏のふたつの武家が大きな力を持った。清和源氏の三代目源頼光の土蜘蛛退治や大江山酒呑童子退治、市原野の鬼童丸退治などの武勇伝説に基づいた数々の作品や、それらの物語をモチーフに制作された鐔が、次のセクション「平安時代の武者」を飾っている。
平安時代に源氏と平氏のあいだで繰り広げられた多くの戦いを伝える物語は、武者絵の画題として大きな割合を占めている。「源平時代の英雄」セクションでは、源氏と平氏の戦いに登場した数々の武将の活躍場面を描いた作品だけでなく、源氏の重宝「太刀 折返銘 長円(薄緑)」や、平家の猛将・能登守教経(のとのかみのりつね)の所用だったと伝える「太刀 銘 友成作」なども展示されており、源平争乱の物語を肌で感じとることができるだろう。
鎌倉時代には、父を殺された曽我兄弟が18年間の苦難に耐え、父の仇である工藤祐経を討ち果たした『曽我物語』などが伝えられた。鎌倉幕府の滅亡後、南北朝の動乱などを中心に物語る『太平記』や、戦国時代に甲斐の武田信玄と越後の上杉謙信のあいだで行われた5回の戦いを総称する「川中島合戦」は、初期浮世絵の時代から多く描かれている。続く3つのセクションでは、こうした物語における様々な場面に焦点が当てられた作品が紹介されている。
19世紀に入ると、「読本」と呼ばれる伝奇的な長編小説が次々に出版され、様々な冒険譚が大きな人気を博した。文政10年(1827)頃から出版され始め、中国の小説の英雄を錦絵に描いた歌川国芳の「通俗水滸伝」をきっかけに、小説の登場人物を色鮮やか錦絵で取り上げた武者絵が人々の心をとらえた。「小説のヒーローたち」では、こうした英雄たちが現代のマンガ雑誌のカラー口絵のように会場に飛び出している。
展覧会の最後には、ボストン美術館の刀剣コレクションから厳選した20口の名刀が集結。コレクションのなかでもっとも古い作である「太刀 銘 安鋼」や、京都の来派のなかで遺存が少ない南北朝期の国宗の名作「脇指 銘 来国宗」、江戸時代初期の新刀の祖と呼ばれている堀川国広作の「刀 銘 洛陽住信濃守国広 慶長十五年八月日」などの作品を通し、平安時代から江戸時代までの日本刀を概覧することができる。