紀元後79年、イタリア・ナポリ近郊のヴェスヴィオ山の大規模な噴火により埋没した古代ローマの都市、ポンペイ。その出土品を通して、2000年前に繁栄した都市とその豊かな市民生活をよみがえらせる特別展「ポンペイ」が、東京国立博物館 平成館で開幕した。
ポンペイでは、18世紀から現在に至るまで発掘が続けられている。本展では、ポンペイ出土の膨大な遺物を収蔵するナポリ国立考古学博物館のコレクションより、壁画、彫像、工芸品の傑作から、食器、調理具といった日用品まで発掘品約150点が集結している。
展覧会は、「序章:ヴェスヴィオ山噴火とポンペイ埋没」「ポンペイの街──公共施設と宗教」「ポンペイの社会と人びとの活躍」「人びとの生活──食と仕事」「ポンペイ繁栄の歴史」「発掘のいま、むかし」の6章構成。様々なパースペクティブから火山灰で埋没したポンペイの「タイムカプセル」の中身を解き明かす。
序章では、ヴェスヴィオ山噴火のCG映像とともに、噴火直前のヴェスヴィオ山が描かれたフレスコ画《バックス(ディオニュソス)とヴェスヴィオ山》や女性犠牲者の石膏像などが展示。噴火前から埋没後のポンペイを直観的に感じとることができる。
1万人ほどの人口を擁したポンペイの街には、フォルム(中央広場)、劇場、円形闘技場、浴場、運動場などの公共施設が存在していた。また、神々を祀る神殿も古代の都市に必要な要素だった。第1章では、こうした公共施設にまつわる作品やアポロ、ウェヌスなどの神々に関する作品を通し、ポンペイの街と宗教について紹介する。
《フォルムの日常風景》は、ポンペイの街のフォルムを描いたフレスコ画。金物や織物を売る商人、品物を見定める人々の姿が生き生きと描かれている。《円形闘技場での乱闘》は、ポンペイと近隣都市のヌケリア(現・ノチェーラ)の住民のあいだで実際に起きた抗争を描いたフレスコ画であり、当時の円形闘技場の様子が極めて忠実に描き出されている。
街の運動場から発掘された大理石像《ポリュクレイトス「槍を持つ人」》は、古代ギリシアの彫刻家ポリュクレイトス作のブロンズ像《槍を持つ人》の複製品とされるもので、ギリシア彫刻の理想的な均整美を伝える教科書的な作品ともいえる。サンダルをぬぐ女神ウェヌスを表現した大理石像《ビキニのウェヌス》では、ビキニの部分に金彩がまだ残されており、当初は邸宅の中庭で飾られていたという。
ポンペイの街では、裕福な市民たちが暮らしていた。上流層の人々のほか、ビジネスの才覚でのし上がった解放奴隷や低い出自の女性などの資産家もいた。第2章では、宴席を飾った豪華な品々や、ポンペイの女性が使っていた宝飾品、奴隷階級出身の人々が街の有力者となった歴史を物語る発掘品などが展示されており、古代ローマ社会の動的な側面を窺うことができる。
第3章では、ポンペイの人々の食と仕事にフォーカスする。台所用品や食器類、出土した食材に加え、医療用具、画材、農具、工具など、ポンペイの住民たちが使っていた仕事道具などが並ぶ。
第4章では、ポンペイ繁栄の歴史を示す3軒の邸宅「ファウヌスの家」「竪琴奏者の家」「悲劇詩人の家」に注目。その一部を会場内に再現した展示とともに、モザイクや壁画の傑作、出土した生活調度品などが紹介されている。
例えば、「ファウヌスの家」は約3000平米に当たるひとつの街区全体を1軒で占める、ポンペイでは最大の邸宅。本展では、この家で飾られていた、家の名の由来となったファウヌス像《踊るファウヌス》や海の幸を表したモザイク《イセエビとタコの戦い》、そしてエクセドラ(談話室)に敷かれたモザイク《アレクサンドロス大王のモザイク》を再現した映像などが展示されており、この家の繁栄の歴史をたどることができる。
前述したように、ポンペイでは遺跡の発掘は現在に至るまで続けられている。初期の発掘では、遺構や出土位置についての記録は往々にして不十分で、様々な痕跡は永遠に失われてしまった。現在ではより厳密で慎重な発掘調査が行われており、同時に遺跡や出土物の保護も重要な課題となっている。第5章では、その発掘の歴史や現在進行中の修復作業が紹介されている。
なお本展は、東京を皮切りに、京都、仙台、福岡にも巡回。2000年前に繁栄し、噴火堆積物によって閉じ込められたポンペイの数々の名品をぜひ会場で目撃してほしい。