2020.12.11

寺田倉庫のコレクターズミュージアム「WHAT」が開館。オープニングは高橋龍太郎コレクションと奈良美智作品のコレクションを展示

寺田倉庫がコレクターから預かり保管している作品を公開し、その価値と魅力を広く発信していく現代美術のコレクターズミュージアム「WHAT」が、東京・天王洲に12月12日にオープンする。

展示風景より、左から奈良美智《ひよこ大使》(1993)、《I'm Swaying in the Air》(1995)、《Brutal Youth》(1994)
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 寺田倉庫がコレクターから預かり保管している作品を公開し、その価値と魅力を広く発信していく現代美術のコレクターズミュージアム「WHAT」が、東京・天王洲に12月12日にオープンする。

 同施設は、画材ラボ「PIGMENT TOKYO」に隣接し、「建築倉庫ミュージアム」と同じビル内にオープン。展示空間は2階に分かれている。

 オープニングを飾るのは「INSIDE THE COLLECTOR'S VAULT VOL.1」と名づけられた展覧会だ。同展では高橋龍太郎と「A氏」の2名のコレクターが、それぞれの視点や価値観をもって収集した約70点に渡るコレクションが展示される。

展示風景より、左から「ランチボックス・ペインティング」シリーズ(2016)、岡崎乾二郎《「誰だ。何をしにきた」。(中略)静かだった森がごうと唸り声をあげる。》(2016)

 高橋龍太郎は、精神科医であり、日本を代表する現代美術コレクターのひとり。1997年より本格的に現代美術のコレクションを開始し、所蔵作品は現在2000点以上。これまでに国内外21館の美術館などで高橋コレクション展が開催されてきた。

 「A氏」は日本の実業家である投資家。2001年に奈良美智の作品を美術館で鑑賞したことをきっかけに、コレクションをスタート。以来、奈良の作品を中心にコレクションを行っている。

展示風景より、奈良美智《Rock and Roll(アートカー)》(2004)

 高橋コレクションの展示は「描き初め ─コレクションはいつまでも若い─」と名づけられた。高橋は同展について「いままで展示されなかった若い作家たちのストロークの強度と、先行く作家たちの新しい展開に焦点を当ててみた」とコメントしているように、若手から中堅作家の作品を中心に、1階と2階のスペースに分かれて展示されている。

展示風景より、野澤聖《Obsession―蒐集家の肖像―》(2020)

 まず、1階スペースの展示で目を引くのは近藤亜樹の大型作品《ウータン山》(2010)だ。山とオランウータンの姿が同化したような本作は、近藤が東北芸術工科大学の大学院に在籍しているときの作品。様々な経験を経ながら現在にいたるまで描くことを続けてきた近藤の力強い筆のストロークは、初期作品からもうかがえる。

展示風景より、近藤亜樹《ウータン山》(2010)

 水戸部七絵《DEPTH》(2015)も、会場で注目を集めていた。油絵具を盛り上がるように塗り重ねていく水戸部の作風を象徴する作品で、巨大な鉄製のパネルで支えられた絵具の重量感とともに、内部では未だ乾いていないという生きている絵具の質感を堪能したい。

展示風景より、水戸部七絵《DEPTH》(2015)

 川内理香子の作品は、油彩画の《Forest of the night》(2019)と、針金を使った立体作品《limb》(2018)の2点を展示。異なるアプローチの2作だが、双方を見れば、手法は異なれど「線」を紡ごうと川内が試みていることを知ることができる。

展示風景より、川内理香子《limb》(2018)

 また、川内の《Forest of the night》は土取郁香の《I and You(knock knock knock)》(2020)と並べて展示されている。絵画を構成する物質性や虚構性、具象と抽象のあいだを揺れ動くモチーフなどを追求してきた土取の作品と川内の絵画との共通項を探るのもおもしろいかもしれない。

展示風景より、左から土取郁香《I and You(knock knock knock)》(2020)、川内理香子《Forest of the night》(2019)

 2階の大型展示室では、今津景、梅沢和木、大山エンリコイサム、鈴木ヒラク、佃弘樹、DIEGO、BIEN、毛利悠子の作品が一堂に展示される。

展示風景より、左から大山エンリコイサム《フィグラティ #162》(2017)、BIEN《Day For Night》(2019)、鈴木ヒラク「GENZO」シリーズ(2014〜15)

 それぞれの作家の作風は千差万別だ。しかし、例えばBIEN、DIEGO、大山の作品がストリートアートと文脈を共有していたり、今津、梅沢、佃の作品がインターネット上の画像や情報への興味で共通していたりと、各作家の作品が持つ要素を様々な角度でつなげることにも気がつける。

 このように、作品を単体で見るのみならず、ひとりのコレクターがどのような思想をもとにコレクションを築いたのかを考えながら鑑賞することも、コレクターズミュージアムの楽しみかたのひとつと言える。

展示風景より、左から梅沢和木《ジェノサイドの筆跡》(2009)、DIEGO《Ladder Boys》(2019)
展示風景より、今津景《Swoon》(2018)
展示風景より、毛利悠子《モレモレ:ショーケース #1》(2019)

 会田誠の「ランチボックス・ペインティング」シリーズ(2016)にも注目したい。市販の使い捨ての弁当箱の容器に、着色した発泡ウレタンを配置して構成された抽象作品を並べて見ることができるのは、会田の作風や思考がいかに時代と呼応してきたのかを考えるうえでも貴重な機会だ。

展示風景より、会田誠「ランチボックス・ペインティング」シリーズ(2016)

 また、高橋が初めて手に入れた草間彌生の作品であり、コレクションの原点とも言える《No.27》(1997)も展示されており、こちらも必見だ。

 「A氏」のコレクションの展示も2階スペースを使って行われ、そのすべてが奈良美智の作品となる。「A氏」は投資家として様々な企業を上場させ、現在も企業の代表やベンチャー企業への投資家として活躍している。「A氏」と奈良美智の出会いは2001年。その作品を美術館で鑑賞したことがきっかけに、「A氏」は奈良作品のコレクションをスタートさせた。

 展示では「A氏」のコレクションのうち、80年代から90年代にかけての奈良作品を中心に紹介。奈良の作品を象徴する「女の子」が登場する以前の作品に、新鮮さを憶える人も多いだろう。80年代に制作された木彫作品も併せて展示されており、幅広いジャンルの作品から奈良の制作の変遷を知ることができる。

展示風景より、左から奈良美智《Untitled》(1991)、《悟空》(1987)
展示風景より、左から《悲しみの炎・波の泉Ⅰ》(1989)、《Untitled》(1986)

 なかでも《Slash with a Knife》(1999)は、「A氏」が初めて購入した奈良作品だ。「A氏」は描かれている「女の子」の持つ闘争心に惹かれたといい、自身が仕事をするうえでもこの作品から勇気をもらうという。ほかにも「女の子」が描かれた作品は多く展示されるが、その姿や表情が時代によって変わっていった様も、知ることができるだろう。

展示風景より、奈良美智《Slash with a Knife》(1999)
展示風景より、左から《Untitled》(1995)、《Untitled》(1994)、《Neverending Fight》(1993)

 なお、「A氏」のコレクション展示は前期(12月12日〜3月21日)と後期(3月23日〜5月30日)で展示替えをするものもあるので注意したい。

 それぞれのコレクションから多数の作品を展示することで、各個人の思想までもを垣間見ることができる。美術作品を集めるという行為が、時代や思想の写し鏡になることを改めて確かめることができる展覧会だ。