大阪の経済と文化の中心地である中之島に2022年2月に開館する大阪中之島美術館。その建物内部が公開された。
国立国際美術館に隣接するかたちで誕生する大阪中之島美術館は、もともと近代美術館を新たに建設するという大阪市制100周年記念事業のひとつとして、1983年に構想されたもの。90年に準備室が設置されて以降、長期にわたる検討を経て、2013年に中之島に美術館を整備することが決定。19年2月に建設工事がスタートし、今年念願の竣工を迎えた。民間資金を活用するコンセッション方式を取り入れた日本初の公共美術館としても注目を集めている。
大阪と世界の近現代美術および近現代デザインを収集方針とする同館のコレクションは、大阪の実業家・山本發次郎(1887〜1951)の収集作品約600点をはじめとする約6000点で構成。2012年には約18000点にもおよぶサントリーポスターコレクションも寄託されており、19世紀のアーツ・アンド・クラフツ運動やバウハウス、アルヴァ・アアルトなどを含んだデザインコレクションも有している。
この新たな美術館の建築を設計したのが、遠藤克彦建築研究所。黒い直方体というこれまでの美術館の常識を覆すような建築を誕生させた。
遠藤は、美術館内部の人々の営みを強調するため、外観はあえて黒いプレキャストコンクリートパネルで覆った。また中之島という都市のなかで美術館の存在を埋没させないというデザイン的な側面だけでなく、環境への配慮も黒を選んだ理由だという。反射するガラスの建物は周囲への環境影響も大きく、「今後の建築設計は建物単体ではなく都市全体で考える必要がある」と話す。
館内は5階建てとなっており、延べ床面積は約2万12平米。敷地面積は12870平米で、建築面積は6680平米。1階がホール、ワークショップルーム、レストラン、カフェ、ショップ、2階がアーカイブズ情報室、カフェ、3階が収蔵庫となり、4〜5階に5つの展示室が位置する。
1〜2階には複数のエントランスがあり、中之島エリアとの接続性を高める試みが見られる。隣の国立国際美術館との間にはブリッジも架けられる予定で、アートファンにとっても嬉しい構造だ。
美術館に入館し、まず気づくのがこの美術館の大きな特徴となる全フロアを貫く巨大な吹き抜けだろう。このオープンな屋内空間は「パッサージュ」と呼ばれ、1〜2階は様々な人が自由に行き来することが想定されている。また展示室がある4〜5階のパッサージュには配線ダクトなどがあらかじめ設計されており、展示スペースとしても使えるようになっている。パッサージュの壁面はすべて同色のプラチナシルバーで統一されており、落ち着いた空間が演出されている。
遠藤は「美術館建築は特殊。公共建築物でありながら、市民が入れる部分とそうでない部分がある」としつつ、できる限り「開かれた美術館」を目指したと語る。「現代の建築家としては、開く部分と閉じた部分の境界をどう捌いていくかが重要であり、パッサージュがそれを可能にした」。
1階あるいは2階から入館した来館者は、長いエスカレーターに乗って展示室フロアへと上がることになる。4〜5階は一筆書きで展示室を回れるような構造となっており、柱がないことも手伝って、ゆったりとした印象を与える。
1400平米の4階は、主にコレクションを展示することが想定されたスペース。日本画も展示できる巨大な「コの字」のガラスケースが特徴的な展示室1と、大阪を拠点としていた具体美術協会の活動を紹介するための黒い壁面を持つ展示室2からなる。
5階は4階よりも広い1700平米。様々な企画展などに対応できるよう、展示室3~5が連続する広大なフロアだ。天井高は6メートルで、可動壁で空間が分割できる。
黒い直方体という単純な外観の中に、複雑な吹き抜け構造を有したこの美術館。初代館長の菅谷富夫は、竣工によって「新しい美術館のスタートに向けて大きく前進した。ワクワクしている」と来年の開館に向けて意気込む。
同館のオープニングを飾るのは、コレクションから代表的な作品を選び、全展示室を用いて一堂に公開する「Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―」(~2022年3月21日)だ。本展では3つの章で大阪中之島美術館の収集活動の特徴を提示するほか、作品にまつわる99の物語が紹介されるという。2月の開館を楽しみに待ちたい。