自ら制作したオブジェや写真などの実在するモチーフを配置し、仮設の風景として絵画を描くことで知られるペインター・千葉正也。その国内美術館での初個展が、東京オペラシティ アートギャラリーでスタートした。
本展では、絵画作品を中心に、ドローイングやオブジェ、映像、サウンド・アートなど約100点の作品を紹介。キュレーションは、東京オペラシティ アートギャラリーのチーフ・キュレーター兼学芸部長の堀元彰が担当した。
会場では、木材で組み立てられた空中通路がすべての展示室をつないでおり、作品はその左右に配されている。作品を壁に掛けるという従来の絵画作品の展示方法とは異なる、独特の展示構成だ。
その意図について、堀はこう説明する。「千葉さんは、作品をつくるときに実際に模型をつくって、テーブルの上に色々なオブジェを構成してから絵を描いている。リアルなものを大事にしており、そのリアル感は絵画の重さや物質感をもたらしている」。今回の展示方法も、絵画というメディアで重層的な「構成」の立体感を演出する試みだ。
本展において印象的なのは、千葉が紙粘土や木片で制作した人型のオブジェや写真などを日用品とともに配置して入念に描いた絵画だ。同じモチーフが複数の作品に繰り返し描かれており、これらのオブジェの一部は、会場の様々な場所にも実際に展示されている。
例えば、本展の中心部には千葉の集大成的な作品《平和な村》(2019-20)が展示。同作には、千葉が2006年に制作した《平和な村》の第1作をはじめとする過去の作品に描かれた彫像、絵画、オブジェなどのモチーフが描かれている。千葉の個人史やこれまでの制作過程を振り返る作品とも言えるだろう。
「タートルズ・ライフ」シリーズでは、画面の中央に亀が住んでいる水槽が置かれており、その周りに現代社会の隠喩的なモチーフが描かれている。例えば、同シリーズの《地獄巡り》では、地獄に関する絵画や映像、そしてナイフや銃など暴力を示すモチーフが描かれており、亀はその「地獄」のなかを歩き回っている。
こうした亀は会場にも登場。1匹は会場内の空中通路を歩き回るいっぽうで、もう1匹は水槽のなかからリアルタイムで映されている会場内の監視カメラの映像を見ている。堀によると、本展の展示作品は人間の目線ではなく、亀の目線にあわせて配置されたという。
そのほか、千葉が本展のために制作した「温かいギャラリースタッフ」シリーズは、電気毛布の上に東京オペラシティ アートギャラリーのスタッフを描いたものであり、タイトルが示すように温かい気持ちをもたらす作品群だ。また会場には、「作品を見るためにこの双眼鏡を使うことができます」のような「指示書」の役割を持つ作品も複数展示。これらの作品をヒントに、実際にアクションしてみるのも醍醐味だ。
こうしたユーモアで遊び心にあふれた千葉の作品について堀は、「その作品のベースには、自分や身の回りのものがあるが、写真を撮ってダイレクトに絵を描くのではなく、絵画で構成し直すというところが重要」だと話す。
また本展を通じて発信したいメッセージについて、堀はこう続けた。「見る人は、絵画の見方として、色々な見方があるということを思ってもらって、絵を描いている人は、自分の思ったことをやって、どんどん表現して頑張ってもらえればと思う」。