日本初の写実絵画専門美術館として、2010年に開館したホキ美術館。2019年10月、台風21号の通過にともなう豪雨により浸水被害を受け休館が続いていた同館が、8月1日に再開する。
ホキ美術館館長の保木博子の説明によると、美術館裏側のスロープから流れ込んだ水により、館の地下が浸水。排水ポンプの起動装置と館内電源が喪失し、水圧で美術館のドアが曲がるなどの被害が出た。とくに収蔵庫、事務室、ギャラリーなどがある地下2階は床上80センチメートルまで浸水しており、ポンプで水を出すのに3日間を要したという。
水に濡れた100点ほどの作品は、修復師の指導のもとに、額を外して水で洗浄する応急処置を実施された。湿気を帯びた作品を含め、全部で約180点に燻蒸を施し、修復が必要なものは約50点に上る。現在でも30点ほどの作品について、作家の確認のうえ修復が進められている。
館の処置としては、浸水した地下2階の床をはがし、壁も濡れた箇所を取り替え、油圧式エレベーターの下層部分も交換。現在は、電源を上階に移したうえ、水が流れ込んだスロープに止水壁を設けるといった工事が続いており、これにより再度の水害を防ぐことができるという。
8月1日より、再開を記念して開催されるのが「森本草介展」だ。森本草介は1937年生まれ。東京藝術大学油画科卒業し、66年に国画賞を受賞。69年に国画会会員となり、15年に世を去るまで風景画、婦人像、静物画など、写実絵画を描き続けた。
ホキ美術館の設立は、創設者の保木将夫が森本草介の作品と出会って感銘を受け、日本の写実絵画の収集を始めたことがきっかけ。ホキ美術館の原点とも言うべき森本作品を特集することで、同館の再出発への意気込みが感じられる。
今回展示されるのは、1998年のコレクションの第1号である《横になるポーズ》(1998)をはじめとする34点。東日本大震災を経て描かれた《未来》(2011)など婦人像21点のほか、森本が自身の代表作として最後に同館に収めた《アリエー川の流れ》(2013)などの風景画10点を展示する。
さらにそこに加わるのが、16世紀にカラヴァッジョが描いた果物籠を思わせる《果物たちの宴》(2001)などの、伝統的な静物画3点だ。
いずれも、落ち着いたセピアトーンの色使いで描かれており、「生きる喜び」をテーマに描き続けた森本の、静かながらも確かな息づかいを感じることができる。
地下1階では「第3回ホキ美術館大賞展」が同時開催。40歳以下の新人写実画家を対象に行われるホキ美術館大賞。昨年実施された第3回では、全国から93作品の応募があり、その入選作21点が同展で紹介される。
大賞を受賞したのは中西優多朗による人物画《次の音》。準賞は岩下慎吾の風景画《神鳴》となった。ほかにも、高く評価された若手作家による応募作を一堂で見ることができる。
収蔵作品では、羽田裕、野田弘志、青木敏郎、諏訪敦、五味文彦、塩谷亮といった、同館が誇る写実絵画コレクションを代表する作家たちの大型作品が展示される。国内肖像画の傑作の筆致を、心ゆくまで楽しむことができる。
豪雨による浸水により、展示室や作品に大きな被害を受けたホキ美術館。約10ヶ月ぶりの再開となる同館で、日本の写実絵画の世界を堪能してはいかがだろうか。