トンネルの奥の世界地図。「関口光太郎 in BEPPU」で大規模インスタレーションを見る

国際的に活躍する1組のアーティストを別府に招聘し、地域性を活かしたアートプロジェクトを実現する個展形式の芸術祭「in BEPPU」が9月21日に開幕した。4回目を迎える今年は、新聞紙とガムテープを用いた作品を手がけるアーティスト・関口光太郎が招聘作家に決定。市民と協働した大型の参加型インスタレーション作品《混浴へ参加するよう世界を導く自由な薬師如来》を発表している。

会場風景より

 毎年、国際的に活躍する1組のアーティストを別府に招聘し、地域性を活かしたアートプロジェクトを実現する個展形式の芸術祭「in BEPPU」。これまでに「目」、西野達、アニッシュ・カプーアが参加してきた本祭の第4回の作家として、関口光太郎が選ばれた。

会場入口

 関口は1983年群馬県生まれ、多摩美術大学彫刻科卒業。幼少期より新聞紙とガムテープを用いた作品制作を始め、大学の卒業制作《瞬間寺院》が、デザイナー・三宅一生の目に留まり、同氏企画の「XXIc.-21世紀人」(21_21 DESIGN SIGHT、2008)に最年少作家として出品。これまで「デザインあ」(21_21 DESIGN SIGHT、2013)、「あちらの世界?こちらの世界??」(広島市現代美術館、2016)などのグループ展に参加し、特別支援学校「旭出学園」で教員を務めながら、新聞紙とガムテープを用いた立体作品を発表し続けている。2012年には第15回岡本太郎賞を受賞した。

足のあいだを潜ると現れるメイン会場

 9月21日に幕を開けた本祭で関口が発表する作品は、新作インスタレーション《混浴へ参加するよう世界を導く自由な薬師如来》。別府の小学校や大学、公民館などでワークショップを行い、その成果物も取り入れた、市民と協働した新作だ。

 発表の舞台となるのは約30年にわたって地元で親しまれて来た百貨店「トキハ別府店」。百貨店の4階から5階へとエスカレーターを上った先のフロアで来場者を迎える2つの大きな足の隙間をくぐった先に現れるのは、特別な「世界地図」だ。

会場風景
会場風景より、関口が集中的に取り組んだ「薬師如来」の顔。右側に見えるのは、大分県立芸術文化短期大学の学生とのワークショップで制作されたヴィーナス

 作品のバックグラウンドについて、関口は次のように話す。「この作品は、薬師如来であり世界地図なんです。大分県内各所や別府をリサーチした際に知った、別府観音の祖・油屋熊八や、禅海和尚が30年かけて掘り抜いたというトンネル“青の洞門”などにインスピレーションを得ました」。

 いっぽう、作品タイトル《混浴へ参加するよう世界を導く自由な薬師如来》は、画家のアンリ・ルソーの影響があるという。「ルソーは《第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神》(1905-06)という作品を発表しているのですが、その具体性のあるタイトルのつけ方もいいなと思い、作品タイトルの参考にしました。また、ルソーは図鑑などを見ながら、世界の国を作品化したそうです。その点では自分も同じだと、シンパシーを感じました」。

 関口が集中的に取り組んだという入口のトンネルをかたちづくる2つの足、そして顔など、本展には薬師如来を表す要素が点在する。会場全体が世界地図であり、薬師如来であるという構図だ。

掩体壕をはじめとした戦争のイメージも各所に見られる
会場風景より、関口の過去作《大人魚姫》(2013)

 オーストラリア大陸を表すパートでは、関口が学生とともに制作したカンガルー。アフリカ大陸では、子供たちがつくった様々な動物。ユーラシア大陸では、ウェールズのドラゴン、『ブレーメンの音楽隊』、留学生が自国の文化を表したモチーフなども各所で見られる。「約1ヶ月間大分に滞在し、作品を構成しました。このなかには市民のみなさんが手がけたモチーフも多く含まれ、とくに阿弥陀堂のまわりには、国籍不明なものが集まっています」。

会場風景
会場風景より、留学生が自国の文化をテーマに制作した作品

 全体を見ると、空間を活用したダイナミックなインスタレーション作品として、細部を見れば、モチーフへの推測を促す個性豊かな彫刻作品のように見えてくる本作。会場を出れば、そこにはガムテープと新聞紙が置かれた小さなワークショップスペースもある。「まだまだ空間には余地があるので、そこにみなさんが制作した作品を加えていきたいです」と関口が話す本作は、会期中に成長し続ける世界地図とも言えるだろう。

会場風景

編集部

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