東京・六本木の国立新美術館で過去最大規模の回顧展「Lifetime」をスタートさせた、クリスチャン・ボルタンスキー。その映像作品にフォーカスした個展「アニミタスⅡ」が、表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で始まった。
本展は、フランスのフォンダシオン ルイ・ヴィトンの所蔵作品を紹介する「Hors-les-murs」プログラムの一環として行われるもの。会場には《アニミタス(ささやきの森)》と《アニミタス(死せる母たち)》 の2作品が展示されている。
「アニミタス」とは、スペイン語で「小さな魂」を意味する言葉。風鈴をつけた棒が、風にたなびく様子を写した映像をインスタレーション形式で見せる本作。無数の棒は、ボルタンスキーが誕生した日に南半球で見られた星空が再現されている。この配置を基本としながら、豊島(2016)、オルレアン島(2017)、そして死海のほとり(2017)で作品を展開してきた。
風鈴が風になびく様子について、ボルタンスキーは「亡霊」だと話す。「亡霊は見えなませんが、風のように私たちを取り囲んでいるのです」。「アニミタス」シリーズは全部で4点制作されたが、豊島以外の3つは制作後、風や嵐で壊され、その姿は映像に残るのみだ。
ボルタンスキーはこの作品の消滅について、こう語る。「『アニミタス』で重要なのは、その作品が置き去りにされていくということです。映像も(4点)すべて同じ撮り方をしており、時の流れを撮っているのです。その痕跡や思い出だけが残る」。
いっぽうで、現在も姿をとどめる豊島の《アニミタス(ささやきの森)》については、壮大なヴィジョンを示す。「豊島のプロジェクトは大きくなり続けています。このプロジェクトに終わりはありません。7万もの心臓音を集めた《心臓音のアーカイブ》(2008-)とともに、私は《アニミタス(ささやきの森)》を巡礼の地としたいのです。私が望むのは、誰かが《心臓音のアーカイブ》を聞きにきたとき、それがアーティストによってがつくられたものだということを忘れること、それはつまり巡礼地になるということです」。
エスパス ルイ•ヴィトンでは、刻一刻と変わる周囲の空模様や床に敷いた藁の匂いなど、様々な要素とともに映像を見ることができる。「匂いや音、すべてが作品の一部」だと話すボルタンスキーの意図を汲みながら、この展覧会を体験してほしい。
なおボルタンスキーはこの日、アーティストがどうあるべきかについても話してくれた。「アーティストは顔のない人間で、それを見た人が鏡のように自分の顔を見出せる存在。アーティストである最大の素晴らしさは、離れている人のエモーションを、自分の死後も掻き立てることができるということです」。
「マルセル・デュシャンが言うように、見る者が作品を完成させるのです。それそれが自分の体験や文化を通して作品を読み直し、自分のことが語られていると感じてもらいたい」。