金沢工業大学の「工学の曙文庫」とは、15世紀以降の科学技術に関する希少本を中心に約2000点を所蔵するライブラリーのこと。1982年の開館以来、科学の発見・発明が記された原典の初版を収集。科学技術の発展を体系的に知ることのできる世界有数のコレクションになっている。
「世界を変えた書物」展は、この「工学の曙文庫」のコレクションを広く周知するために企画された展覧会で、2012年の金沢を皮切りにこれまで名古屋、大阪でも開催。来場者数はのべ10万人を誇る本展が今回、関東に初上陸し、東京の上野の森美術館で9月24日まで開催中だ。
展覧会は「知の壁」「知の森」「知の繋がり」の3部構成。序章として来場者を迎える「知の壁」は、建築関係の初版本30冊を中心に構成され、精緻な描写が目を引く書物がガラスケースの中に並んでいる。また、壁一面にも敷き詰められるように並ぶ書籍はその数約5500冊。異国の図書館を思わせる空間をつくり出している。
続く「知の森」では、アリストテレス、ニュートン、アルキメデス、ガリレオ、アインシュタインまで、著名な科学者の代表的な初版本約100冊を展示。それらが「力・重さ」「光」「飛行」「原子・核」「非ユークリッド幾何学」など13の区分に分けられており、それぞれが何に関する書物かが明確に示されている。
また、「知の森」会場中盤では、各時代の科学者、技術者が、いかに先人の叡智に影響を受けてきたかを示す大規模なマップも掲示。「知の森」に並ぶ書物を見るうえでのヒントを与えてくれる。
そして最終章の「知の繋がり」は、空間全体を使ったインスタレーションとして構成。ここでは、書物との出会いによる人の脳内での「知の繋がり」のプロセス、「書物」を通して人と人とが情報を共有し、伝達する様子、そして過去から現代、未来に向けた知の連鎖がテーマとなっている。
また、ダーウィンの「種の起源」をはじめ、生物学上の発見に関連した希少本も特別展示されている。
この展覧会では、こうした名だたる科学者による重要な発見を記した書籍のいっぽうで、広島・長崎への原爆投下後の調査書、スペースシャトル・チャレンジャーの事故報告書も展示。科学の長い歴史と影響関係、光と影をも見ることのできる注目の展覧会だ。