地方での芸術祭が行われるようになった草創期を振り返って
地域との結びつきを強く打ち出した展示を核とし、それらを俯瞰し、各地で実施されてきたアートプロジェクトの事例を踏まえつつ、未来への可能性を探っていこうとするのが旧堀岡鉄工所で行われていた「kan-yo studio beta」の取り組みだ。
これまで「ルーツ&アーツしらおい」に参加したことのある青木陵子+伊藤存、梅田哲也、是恒さくらに加え、多彩なアーティストが参加し、トークやワークショップ、制作活動などを行った。
「kan-yo studio beta」の企画者の一人・小田井真美(さっぽろ天神山アートスタジオ)によると「アーティストはエネルギーを注ぎ込んで作品を形にし、それが展覧会として結実するが、ここでは溶岩が固まる前のドロドロとした状態とも言える作品になる以前の段階に触れてもらえたら」と語った。
9月21日には「目標とか思惑を超えてアートが残すものってなんだろう」と題したシンポジウムが行われた。22年前に帯広市で開催された「とかち現代アート展デメーテル」(以下、デメーテル)を例に、芸術祭が地域に何をもたらすのかを検証しようとするものだ。この芸術祭のディレクターだった芹沢高志(P3 art and environment)、当時地元の美術館で学芸員を務めていた寺嶋弘道(北海道文化財保護協会理事)、そして北海道でアートプロジェクトを実施するメンバーらが集った。
会場となった輓曳(ばんえい)競馬場の中で垣間見られた人と馬の営みを出発点に、土地の記憶を掘り起こすことをテーマとし、国際的に活躍する10組のアーティストが作品を展開。トークではコンセプトの紹介とともに、運営や資金調達、いかに地域住民との接点を持つかなど、現在のアートプロジェクトにも通じる課題が話された。
興味深かったのは、この芸術祭にボランティアスタッフとして関わっていた登壇者のひとり、中山よしこの発言だ。
「アートについて知らなかった私にとって、ここでしか出会えない人たちと触れ合うことができ、人生が変わるような強烈な体験でした」。
中山は、現在、地元の斜里町で「葦の芸術原野祭」を企画運営している。そのルーツには「デメーテル」に参加したことが生きていたそうだ。
この芸術祭の継続は叶わなかったが、そこでまかれた種が20年以上の時を経て北海道で花ひらいていたことは、希望を感じさせる出来事と言える。
多くのアートプロジェクトは、単年度ごとにその成果が問われるが、同時に長いスパンでものを見ることによって、つながっていくものが確かにあると感じられた。
「ルーツ&アーツしらおい」はスタートした頃と比べ、地域にゆかりのある作家をより増やし、まちとの関わりを鮮明にしようと試行錯誤を続けている。
こうした取り組みのなかで地域にどんな種がまかれるのだろうか?
未来への期待を胸に留めながら、みなさんも白老のまちをめぐってほしい。