人間ばかりではない平等や民主主義は、アイヌの社会にあった
もうひとり、自身の「ルーツ」を見つめ続けた作家がいる。9月20日から3日間、しらおい経済センターで開催された「古布絵作家 宇梶静江の世界」ではオープン初日に作家のトークが行われた。
宇梶は現在91歳。生まれは北海道浦河郡の姉茶村。23歳で上京、1972年に「ウタリたちよ、手をつなごう」(ウタリはアイヌ語で同胞の意味)と新聞に投稿。和人から差別を受けるなかでアイヌ民族の団結を呼びかけた。同胞との交流を推し進める活動とともに詩を制作。そんななか、63歳で転機が訪れたという。
「あるとき古い布の展示を見に行きました。そのなかで、A4サイズほどの布絵を見つけ、『布で絵を描けるなんてこれはすごい』と思いました。ガーンと衝撃を受けたわけです」。
この出来事の1年前にアイヌの伝統刺しゅうを学んでいた宇梶は、この技法に古布を組み合わせて叙事詩・ユーカラの世界を表現する創作活動を始めることとなった。
また埼玉から白老へ3年前に移り住み、アイヌ文化を語る活動も行っている。
「いままで私は差別から逃れるためにアイヌであることを隠そうとして、アイヌの叙事詩を深く知ろうとしませんでした。こうした物語を探し始めてみると、主人公は人間ではなくシマフクロウやサケなどの生き物で、これはすごいと思いました。子供の頃、成績優秀な人間が良いという社会で生きてきましたが、人間ばかりではない平等や民主主義は、アイヌの社会にあったと気づき涙が止まりませんでした」
自分自身の「ルーツ」に背を向けてきた状況を転換させたのが、古布絵という「アート」であったことが、宇梶の言葉として語られたことが印象的だった。