表現分野において欠かせないものとして存在する「キャラクター」。これをテーマに据えたグループ展「キャラクターズ」が、東京・天王洲のYUKIKOMIZUTANIで開催される。会期は4月22日〜5月28日。
「登場人物」や「人格」を意味する英単語「Character」とその概念は、日本で「キャラクター」として受容されて以降、もともとの意味を越え、現在では広い分野の研究対象となっている。また美術の領域でも「キャラクター」はいまや大きな存在感を示すものだ。本展は、「キャラクター」という概念が今日の絵画や彫刻において、どのように扱われ、どう表現されているのかを探る展覧会となる。
参加作家は松本セイジ、尾花賢一、添田奈那の3名。
松本セイジは1986年大阪府生まれ、長野県在住。大阪芸術大学卒業後、デザイナーとしてキャリアをスタートさせた。東京で経験を積み、アーティスト活動を開始するためニューヨークへ渡航。2017年の初個展で「ねずみのANDY」を発表して以降、東京、ニューヨーク、ロサンゼルスなどで個展やアートイベントに参加。NIKE、UNIQLO、The New York Timesなど国内外の大企業とコラボレーションを果たしてきた。
尾花賢一は1981年群馬生まれ。2006年に筑波大学芸術研究科油絵専攻卒業。土地に根差した固有の歴史や物語を背景に、劇画調のドローイングや彫刻、インスタレーションを制作しており、脇役としての覆面男をテーマとしたシリーズは尾花の代表作のひとつだ。芸術祭にも活発に参加し、近年では「奥能登国際芸術祭2020+」(珠洲市、石川)で、新作のインスタレーション《水平線のナミコ》を発表。2021年の「VOCA展」で大賞を受賞したことは記憶に新しい。
添田奈那は1994年東京生まれ。セントラルセントマーチンズ・ファウンデーションコース修了。アジアで売られている玩具や看板、ガラクタから影響を受け、「チープ」らしさと社会で起きる理不尽な出来事を作品のテーマとしている。平面のみならず映像や漫画、ぬいぐるみ、陶芸に至るまで、幅広い表現方法が特徴だ。
こうした3人が参加する本展では「物語に先立つキャラクター」、あるいは「キャラクターによる物語生成」が主要なテーマとなる。
例えば、松本の作品は2017年に発表したネズミの「ANDY」をはじめとするキャラクターたちが主要なモチーフとなる。本展示でも作品の中核を担うこのキャラクターたちは物語に先行して登場し、作品が制作されるにつれ要素や背景が増えていくことで、物語を喚起する存在となっている。
また尾花によって描かれる「覆面の男」は、主人公になれない脇役を主題としたシリーズで、尾花の作品にしばしば登場する中心的なイメージだ。「覆面の男」は尾花が幼少時代に描いていた仮面から派生したキャラクターであり、「ANDY」同様、固有の物語に基づいている存在ではない。目出し帽という不穏な衣類をかぶりながらも、主として描きだされるのは、午睡や逍遥など「覆面の男」の日常風景。ここにマンガ的な効果音を前景化させたドローイングが併置されることで、漠然とした物語が一層強く喚起される。
添田が陶器で制作するキャラクターは、もともと《Wake me up tomorrow》という自身のマンガ形式の作品に登場したものだが、通常のマンガとは異なりセリフやコマ割りといった要素は最小限に抑えられ、物語の展開などは読み手の解釈に大きく委ねられている。添田の作品においても物語とキャラクターの結びつきは希薄で、むしろ物語を喚起するキャラクターそのものに比重が置かれていることが特徴的だ。
松本の平面的な着彩や尾花の劇画調の描画、添田によるチープさを体現するグラフィカルな表現。本展は、そうした三者三様の表現様式が「キャラクター」と結びつくことで展開される作品を通して、今日の美術における「キャラクター」とは何かを考える機会を提供するものとなる。