現代的な表現と日本美術の美学を融合した独自の表現方法で、人々の記憶や時の流れをテーマに制作を続けてきたアーティスト・能條雅由。その最新の個展「Stillness」が、4月24日〜6月12日に東京・天王洲のYUKIKOMIZUTANIで開催される。
能條は1989年生まれ。大学在学中から社会における記憶(集団的記憶)に関心を持っており、そして時の経過の表現として尾形光琳の紅白梅図屏風が描いた銀箔を用いた川の流れに閃きを感じ、写真から抽出した色彩の印象をもとに、銀箔を用いたシルクスクリーンで写真のイメージを重ねて作品を制作してきた。こうした作品はミラージュ/蜃気楼のように、鑑賞者の遥かなる記憶の残像を呼び起こす。
本展では、その代表的なシリーズ「Mirage」を国内では初めての大きなスケールで展示。同シリーズでは、能條は自ら撮影したイメージを解体し、偶然性や現象を取り込みながら画面上に銀箔で再構成していくという手段で、時間感覚と記憶の関係性を視覚体験として生みだす。空間や光の影響を受けながら移ろうイメージは、存在を希薄なものへと変化させ、写真が持つ事実性を抽象化させていく。
能條は、ステートメントで次のように述べている。「自作においては脳内にある記憶のイメージの最小構成要素を、『色味』と『フォルム』のふたつからなると定義することから始めました。それらふたつの純粋性を追求していく過程で、絵筆を使って描くという恣意的な行為は失われ、偶然と現象とで画面が満たされていったのです」。
銀箔を使った能條の作品は、自然光が入る環境下では雨の日と晴れの日、朝と晩とで図像の見え方が変わっていく。それは我々が生きている時間と同様に、作品にも時間が流れているということを表している。
こうした周りの環境の影響を受けながら、能條の作品は現象の一部となる。鑑賞者は作品を前に、記憶のなかにある自然の姿を無意識に投影し、自身の記憶をだとっていく。
能條はこう続ける。「記憶が持つ具体性と抽象性とが混在する状態、その視覚化は体感を通して個々人が過去に見たイメージに結びつき、それがどこであったのか辿ることでしょう。どこかで見たことがあるような光景を前に、あの時私が見た、そして今見ていたのは何であったのかを」。