2016年に原爆ドームの東隣にオープンし、建築家・三分一博志によるウッドデッキの屋上展望台を構える「おりづるタワー」(広島市中区)。同施設では、広島ゆかりのアーティスト9名(20代〜90代)が戦後100年となる「2045年」をテーマに願いをアートで描くWALL ART PROJECT"2045 NINE HOPES"が実施される。
同施設を運営する株式会社広島マツダは1933年、当時の原爆ドーム一体に位置した猿楽町(さるがくちょう)で創業。1945年の原子爆弾投下により社屋が倒壊、全社員を失ったが、広島の復興とともに今日まで成長してきた企業だ。
「おりづるタワー」は、この地でしか伝えられない「哀しみ」だけでなく、復興を遂げ、力強く広島で生きた人々にしか伝えられない「願い」をアートで描き、WALL ART PROJECT"2045 NINE HOPES"に「未来への希望」を託し、この広島の地から発信していきたいと考え、今回のプロジェクトを企画した。
参加アーティストは、土井紀子、若佐慎一、SUIKO、田中美紀、山本基、三桝正典、毛利まさみち、三浦恒祺の8名に加え、制作完成後に発表されるシークレットアーティスト1名がラインナップ。制作場所は、おりづるタワー東側の9層にわたるスパイラルスロープにある、1層4メートル×24メートルの大型のウォールアートのキャンバス。9名のアーティストは各1層ずつ制作していく。
例えば、三桝正典は「白い羽のカラス」を描く。一般的にはあり得ないことの例えとされる白い羽のカラス。三桝はこのテーマについて、次のように述べている。「烏の色を『白』として描いたのは、『あり得ない未来』に向けて『新しい未来』への視点や価値観を現在の烏(黒)風景から『あり得る平和の新しい祈り』として未来の烏(白)風景としての変化を伝えたものです。このウォールアートで、戦後100年への夢や希望、やすらぎや癒しなどの広島ならではの祈りや願いを届けたいと思います」。
若佐慎一は、7体7色の招き猫、そして壁面全体にはキラキラ星と、平和の象徴として白い鳩を描く予定。多様性を象徴する虹色の配色で招き猫を描くことで、2045年の未来では多様性が当たり前になっていてほしい、という願いが込められているという。
若佐はステートメントで、「今回のプロジェクトは、広島で生まれ育った私からすると、広島を代表する企業にお声がけいただいたことで故郷に錦を飾るじゃないですが、本当に嬉しかったです」とし、次のような想いを寄せている。
「戦後100年へ向けては、(中略)それぞれに内在している多様性をお互い認識して受け入れる必要があると考えています。広島から何かしらの、世界平和に対するメッセージを出すことは常々大切だと考えています。ウォールアートをご覧いただいた方々に、そういったことについて少しでも考えていただけたら嬉しく思います」。
4月26日までは、おりづるタワーの半屋外のらせん型スロープで公開制作が行われており、作品完成は4月29日を予定している。
多様なジャンルのアーティストが集結し、戦後100年先の世界への様々な願いをウォールアートの形式で表現するこのプロジェクトにぜひ足を運んでほしい。