2020年に始まったコロナ禍の影響で、世界各地のアートフェアはそれぞれ独自の創意工夫を迫られてきた。マーケットは活況を呈するなか、コロナ時代のアートフェアはどうあるべきなのか。2015年にスタートした国際アートフェア「UNKNOWN ASIA(アンノウンアジア)」も、その課題に直面したフェアのひとつだ。
UNKNOWN ASIAは若手アーティストを中心とした「UNKNOWN(未知の才能)」を発掘するためのプラットフォームを目指すアートフェアとして毎年回を重ねてきた。アーティストが直接現場に立ち、来場者に作品をプレゼンテーションする形式は同フェアのアイコンとなっており、毎年多くのアートファンが詰めかける。
しかしながら昨年はコロナの影響で完全にオンラインへとシフトせざるをえなかった。その経験を経た今年は、オンライン会場(10月9日、10日)とリアル会場のハイブリッドという新しい形式での開催となる。
今年の出展アーティストは、オンラインとリアルをあわせて約130組。うち100組がリアル会場での参加となった。
活気あるアーティストたちのプレゼンテーション
例えば普段は会社員として働きながら、アーティスト活動も続けるalanは、自分をモチーフにした丸目が特徴のキャラクターを描く。社会の抑圧された部分を解放したいと話すalanは今回、自らのキャラクターをコスプレさせることで、世界の名画や有名キャラクターなどを大胆にハックする。
モノクロ写真に刺繍を施す作品を展開する野中ひとみ。彼女が作品に込めるのは祈りや想いなど不可視なものだという。日常の何気ない風景に色とりどりの刺繍を加えることで、それは何ものにも代えがたい特別な瞬間となる。
同じく写真を表現手法とする竹本英樹は、8ミリの映画フィルムで被写体を撮影し、その一コマを拡大してプリントする。8ミリならではの粗々しい粒子は、鑑賞者に潜在する記憶とどこかで重なっていく。「作者である自分の存在はなるべく消している。見る人がそれぞれ、自由に解釈してほしい」という考えが込められた作品群だ。
安田知司は油彩によってピクセルを描き、一枚のモザイクアートを生み出すアーティスト。ドットの単位(ppi)を作品名としており、水平方向に残された筆致が絵画全体に奥行きをもたらす。鑑賞する距離によってモチーフの解像度が変わるユニークなシリーズとなっている。
昨年のUNKNOWN ASIAでオーディエンス賞を受賞した山中智郎。デジタルアートを得意とする山中は、毘沙門天などの仏教的な題材を「ヒーロー」の原型としてとらえ、自らの憧れをそこに託す。本展では、デジタル作品をもとにしつつ、キャンバスへと落とし込んだ作品を発表した。
このほか、100円ショップで買える材料だけで立体作品を生み出す「わんぱく中年とのまる」や、「書」をモチーフにアクリル絵具を厚塗りして表現する原康浩、繊細なイラストレーションが評価され、スペインで2冊の絵本を刊行した鹿島孝一郎など、多種多彩なアーティストたちが集う。
問われるアートフェアのありかた
今回のUNKNOWN ASIAでは、こうしたアーティストブースのほか、創設以来初となるギャラリーブースを導入。DMOARTSやLEESAYA、TEZUKAYAMA GALLERYなど18ギャラリーが参加した。その狙いについて、同フェアエグゼクティブプロデューサーを務める高橋亮はこう語る。
「出展ギャラリーのスタッフがアーティストブースの審査員あるいはレビュアーも務める。ギャラリーとアーティスト、それぞれのブースを同じ空間に並べることで、フェアが両者の架け橋になることもできる。また、一般来場者の方々にはギャラリーとアーティストでどのようにプレゼンテーションが異なるのかも楽しんでもらいたい」。
フェアのスタート以来、初めてのオンライン・リアルのハイブリッド開催となった今年のUNKNOWN ASIA。このシステムは海外から渡航できないアーティストなども含め、アーティストたちの期待にできるだけ応えたいという思いから実現したものだ。「オンラインだけではどうしてもコミュニケーションが一方通行になりがち。コロナ対策を万全にしつつ、実際のコミュニケーションをとってもらう現場をどれだけつくれるかが大事だ」(高橋)。
マーケットが盛り上がりを見せるいまのアート界だが、その重要性は意識しつつ、マーケット偏重ではないフェアをつくりたいと話す。「マーケットだけではない、『アートの魅力』を実直に届けたい。アートフェア以外でマーケット的な思考が強くなっている傾向があるいまだからこそ、アートフェアのあり方が問われているのではないか」。
アーティストたちの「表現したい」という気持ちに寄り添い、審査員・レビュアーを招聘する制度によってアーティストたちの活動の幅を広げてきたUNKNOWN ASIA。会場でその熱気にぜひ触れてほしい。