2019.10.25

クリエイターに一番近いアートフェアを目指して。5年目の「UNKNOWN ASIA」が開幕

2015年にスタートした国際アートフェア「UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka (以下、アンノウンアジア)」が今年、5回目の開催を迎えた。ギャラリーブースではなく、クリエイターたちが直に作品をプレゼンテーションすることが特徴のこのフェアは、どのような役割を果たすのか?

 

「UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka」のエントランス
前へ
次へ

過去最大の参加作家数。アジア勢に注目

  「大阪からアジアへ、アジアから大阪へ」をキーメッセージに、2015年にスタートした国際アートフェア「UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka (以下、アンノウンアジア)」が、今年5回目の開催を迎えた。

 アンノウンアジアが見せるのは、若手アーティストを中心とした「UNKNOWN(未知の才能)」だ。関西の人気ラジオ局であるFM802のプロデューサー・谷口純弘と、ACN(Asian Creative Netowork)メンバーでアーティストエージェンシーVISION TRACK代表の庄野裕晃が立ち上げたこのフェアは、年々その規模を拡大し、今年は過去最大規模での開催となる。

会場風景

 

会場風景

 5周年となる今年の会場は、大阪駅に隣接する複合施設「グランフロント」の地下2階に位置する巨大なコンベンションセンター。参加作家数は昨年の213組から大きく数字を伸ばした約290組となり、うち59組は海外からの参加となった。

 フェア会場はこれまでとは異なり、ゆるやかにジャンルごとに分けられている。より自分好みの作品を見つけやすくなったと言えるだろう。なかでも注目したいのは、前回同様、海外作家たちだ。

 バンコクを拠点に活動する写真家のタームシット・シリパニットの作品は、今回のアンノウンアジアのメインビジュアルにも採用されている。自身でアートディレクションやスタイリングも手がけるというシリパニットのビビッドなファッションフォトは、会場でも一際目立つ存在。

タームシット・シリパニットのブース

 独学で絵画を習得したという香港ベースのOychir(アイカ)は、イラストレーターとしても活動するいっぽう、古典から着想を得た作品を展開。中国の古典長編小説『紅楼夢』を下敷きにした「夢の紅楼」シリーズなどを展示。古典的な絵画を踏襲しつつ、イラストの要素を織り交ぜた作品の緻密な描写に、来場者たちは見入っていた。

Oychir(アイカ)のブース

 ふたりの陶芸作家、ネットプロム・ノルとアカラポンパイサン・マイによるユニット「ラムンラマイ・クラフトスタジオ」は日常的に使われるような花瓶や皿、小物入れなどを見せるが、どの作品にも通常では考えられないようなズレがある。人とモノのつながりを更新しようとしているかのようだ。

「ラムンラマイ・クラフトスタジオ」のブース

何かが育つ、「干潟」としてのアンノウンアジア

 美術だけでなく、写真やイラスト、陶芸など、複数のジャンルのクリエイターが集うのがアンノウンアジアの大きな特徴だ。クリエイターたちがそれぞれ自分のブースに立つことで来場者との双方向の会話が生まれ、購入だけでなく、新たなアイデアや次の仕事にもつながっていく。会期はわずか2日だが、そこだけで終わらない関係性が結ばれるのがこの場所だ。

 同フェアでは、そんなクリエイターたちを支える多数の審査員・レビュワーの存在も欠かせない。約200名にのぼる審査員・レビュワーがそれぞれの個人賞を持つことで、より多くのアーティストたちが評価される仕組みとなっている。

谷口はすべての参加作家のレビューをする

 また、一般来場者も気に入ったアーティストに対して投票することができる。この投票でもっとも評価されたアーティストには、「オーディション賞」が贈られ、次回開催時に招待枠で出展ができるという仕組みもユニークだ。

 こうした独自の取り組みを行うアンノウンアジアについて、今年新たに審査員として加わったアーティスト・椿昇は次のように語る。

「僕も京都でアートフェア(ARTIST'S FAIR KYOTO)をやっていますが、お客さんは『ギャラリーには入りにくい』と言う。それは僕らの努力不足で、僕らの方から歩み寄っていかないといけない。アート関係者は『現代美術はこれ』という思い込みが強いですよ。でもアンノウンアジアやARTIST'S FAIR KYOTOはその思い込みを組み替える力を持っていると思います」。

椿昇

 アンノウンアジアもARTIST'S FAIR KYOTOも、アーティストが自ら作品をプレゼンテーションするという構造は同じだ。この共通点について、椿はこう語った。「アンノウンアジアやARTIST'S FAIR KYOTOは何が育つかわからない『干潟』なんです。僕たちはとりあえずそれをつくって、いい作家たちを集めてくる。干潟の良し悪しは、時代がジャッジしてくれるはずです」。

 アンノウンアジアという干潟は、クリエイターたちに何をもたらしたのか? この5年間を谷口はこう振り返る。「これまで参加してくれたクリエイターたちはどんどんアジアに進出していっている。そのきっかけになれたのは良かったですね。何よりも、クリエイティブを通じて仲間が増えていく仕組みができたことは僕の宝です」。

谷口純弘

 多種多様な才能が集まったアンノウンアジアという場所の面白さは、現場で触れてこそ実感できるものだ。この双方向型のアートフェアを、ぜひ楽しんでもらいたい。