2010年より、京都市内を舞台に開催されている「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」。国内外の実験的な舞台芸術を数多く紹介してきたこの舞台芸術祭が今秋、12回目の開催を迎える。
今回は「もしもし?! 」というキーワードを掲げ、プログラムを展開する。 新型コロナウイルス感染症拡大の影響によりオンラインでの対話で、目の前には存在しない、不在の身体に呼びかけることが多くなった。見えているのに「見えない声」、聞こえているのに「聞こえない音」を想像し、いかに耳を傾けるのか、私たちがいま置かれているこの時を考える場所としてのフェスティバルを目指す。
新体制になった昨年度からディレクターを務めるのは川崎陽子、塚原悠也、ジュリエット・礼子・ナップの3名。ステートメントの中で彼らは「観客のみなさんと共に、過去、現在、未来が混在するこのフェスティバルという場所で、急激に変化する『いま』をどのようにまなざすことができるか、ということを考えたい」と意気込んでいる。
今回も引き続き「Kansai Studies(リサーチプログラム)」「Shows( 上演プログラム)」「Super Knowledge for the Future [SKF] (エクスチェンジプログラム)」という3つのプログラムでフェスティバルを構成する。
とくに見逃せないのが、国内外から先鋭的なアーティストを迎え、いま注目すべき舞台芸術作品を上演するプログラム「Shows」だ。
シンガポール出身のアーティスト、ホー・ツーニェンは歴史的、哲学的なテクストや素材から、映像作品や演劇的パフォーマンスを発表してきたアーティスト。今回上演される『ヴォイス・オブ・ヴォイドー虚無の声』(YCAMとのコラボレーション)(会場:京都芸術センター)は、3DアニメーションとVRテクノロジーにより京都学派のテキストにアプローチするもの。作品では主に、京都学派の4人の思想家が真珠湾攻撃の直前である1941年11月末に京都・東山の料亭で行った座談会の記録と、同時代の関連テクストや証言を読み解いていく。
インドネシアのジョグジャカルタを拠点とする実験的音楽デュオ「SENYAWA」のメンバーで、ボイス・パフォーマーとして自身のバンド「ZOO」を率いるルリー・シャバラは新作を世界初披露する。
『ラウン・ジャガッ:極彩色に連なる声』(会場:ロームシアター京都 サウスホール)は、ルリー・シャバラが自ら開発した即興的コーラス手法「ラウン・ジャガッ」を用いたパフォーマンス。演奏にテニスコーツが加わる今回、コロナ禍で来日できないシャバラはリモートで出演者や演出家の筒井潤とともに作品を創作し、指揮者不在でパフォーマンスを行うという自身初の試みを行う。AIを搭載した色彩システムを即興の手がかりに、演者たちは自由に言葉やリズムを変え、他者の声に共鳴させて「声」で遊びながら、セッションを繰り広げていく。
京都を拠点に活動する演出家・和田ながらと、メディア・アートの分野で活躍を見せるやんツーのコラボレーションもに注目だ。『擬娩』(会場:京都芸術センター)では、夫が妊娠中のパートナーの身体の徴候や妊娠にまつわる行為を模倣する「擬娩」という慣習を、パフォーマーの身体と声を通してシミュレート。2019年に初演された作品をやんツーとともにリクリエーションし、いま「産むこと」の意味を問いかける。
このほか「Shows」セクションでは、チェン・ティエンジュオ『牧羊人』(会場:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)、荒木優光『サウンドトラックフォーミッドナイト屯』(会場:比叡山ドライブウェイ 山頂駐車場)、フィリップ・ケーヌ『もぐらたち & 上映会「Crash Park: The Life of an Island」』(会場:京都芸術劇場 春秋座)、松本奈々子、西本健吾/ チーム・チープロ『京都イマジナリー・ワルツ』(会場:THEATRE E9 KYOTO)、鉄割アルバトロスケット『鉄都割京です』(会場:京都芸術センター フリースペース)、関かおりPUNCTUMUN『むくめく む』(会場:ロームシアター京都 ノースホール)、『Moshimoshi City~ 街を歩き、耳で聴く、架空のパフォーマンス・プログラム~』(会場:京都市内全9ヶ所)などをラインナップ。詳細は公式サイトからチェックしてほしい。
なおフェスティバル開催期間、ロームシアター京都のローム・スクエアには観客とフェスティバルとをつなぐ交流の場「ミーティングポイント」が出現。オランダを拠点に活躍する美術家、オスカー・ピータースが手がける巨大な木製ローラーコースター「The Moving Mountain」が“ 会場そのもの” となり、トークイベントやワークショップを開催したり、常駐スタッフによるおすすめプログラム紹介が行われる。