噴気や熱湯があちこちで噴出し、かすかに硫黄の香りが立ち込める大分県別府温泉郷の鉄輪(かんなわ)エリア。約1万3000坪の広大な敷地を有志、雄大な山々と調和するように佇むのが、宿泊施設「山荘 神和苑(かんなわえん)」だ。
神和苑は、約4年間の改装を経て2016年8月にリニューアルオープン。奈良県の木材を使用したこだわりの能楽堂、茅葺の茶室を施設内に設けるほか、庭園にはふたつの池や歴史的な有形指定文化財の史跡や石塔も有するなど、真新しい空間で日本伝統と自然を楽しめるのが特徴だ。
客室は、能楽堂を見下ろす「本館」、全室に露天風のある「別館」、神和苑のスタイルを最大限に生かした特別な「離れ」、そして今年3月にオープンしたばかりの天空宿「宙 -sora-」の4種類。。前もって公式サイトで吟味することをおすすめしたい。
東山魁夷の《道》と14代酒井田柿右衛門の磁器
景観、源泉かけ流しの温泉、四季折々の食材を取り入れた食事など、様々な魅力があるなかで、神和苑の見どころと言えるのは、版画や絵画、陶器といった美術品コレクションの数々。
例えば、館内のフロントでは、東山魁夷の木版画《道》や人間国宝・14代酒井田柿右衛門の磁器が宿泊者を迎える。
また、神和苑のコレクションである人間国宝の陶芸家である清水卯一や三輪壽雪(みわ・じゅせつ)、中村翠嵐(なかむら・すいらん)らによる作品も、苑内では不定期で展示される。
中村翠嵐が初めて手がけた陶釜
コレクションのなかから今回紹介するのは、1942年京都市に生まれ、同市に伝わるやきもののなかで「交趾焼(こうちやき)」を確立した陶芸家、中村翠嵐による陶釜。翠嵐は長年にわたり茶道具をつくり続けたきたが、その中村が自身初の試みとして神和苑のために特別に手がけた陶製の茶釜だ。
人間国宝・清水卯一の《春夏秋冬》
清水卯一(しみず・ういち、1926〜2004)は1985年に人間国宝に認定された陶芸家。47年に前衛陶芸家集団「四耕会」の結成に参加したほか、「緑陶会」「京都陶芸家クラブ」などにも参加し、58年のブリュッセル万国博覧会ではグランプリを獲得し日本国外でも高い評価を得た。
国内では、滋賀県立近代美術館や茨城県陶芸美術館などに作品が所蔵される卯一の壷《春夏秋冬》も、神和苑が誇るコレクションのひとつだ。
窓の外では、温泉街と別府湾がといった豊かな自然に恵まれたロケーションが広がり、苑内や室内では、趣向と快適さが追求された神和苑は、地獄めぐりの拠点としてもおすすめしたい宿泊施設だ。
同苑を訪れた際には、たしかな審美眼によって選ばれた美術品の数々も堪能してはいかがだろうか。