2011年からは横浜美術館を主会場に、これまで6回にわたって開催されてきた日本を代表する国際展「横浜トリエンナーレ」。この第7回展が2020年に開催されるのを前に、国際展をきっかけに拡大しつつある美術館の可能性と課題について検証する公開講座「美術館と国際展を巡る連続講座」が同館にて行われた。
この講座は、岡田利規(チェルフィッチュ主宰)による「美術館という箱はオルタナティヴな劇場になりうるか?」を皮切りに、アートコレクティヴ「ラクス・メディア・コレクティヴ」(ヨコハマトリエンナーレ2020アーティスティック・ディレクター)による「国際展をキュレーションすること」、藤原徹平・金氏徹平による「美術館という建築物と展覧会の関係」の3回で構成。ここではそのうち、第2回の「国際展をキュレーションすること」の様子をお届けする。
ラクス・メディア・コレクティヴは、インド・ニューデリーを拠点に活動するジーべジュ・バグチ、モニカ・ナルラ、シュッダブラタ・セーングプタの3名によるアーティスト・コレクティヴ。今回の講座には、ここからジーベシュ・バグチとモニカ・ナルラの二人が登壇した。
講座はまず、モニカ・ナルラが「ラクス(Raqs)」の意味を説明することから始まった。「ラクス」とは、ペルシャ語、アラビア語、ウルドゥー語で回転運動や旋回舞踊によって到達するある種の覚醒状態や、立ち現れてくる存在との一体感を表す言葉。精力的に思索し続ける「動的熟考/kinetic contemplation(ラクス・メディア・コレクティヴによる造語)」が活動の核であるという。
「私たちはマニフェストを立てることなく活動してきました」と語るナルラ。「マニフェストを立てるということは、ゴールを設定することにほかなりません。そしてゴールを達成した暁にあるのは、解散だけです。そうではなく、私たちはずっと一緒にコレクティヴとして活動し続けることが重要。何をするかではなく、どのように取り組むのかが大切なのです」。そうした理念を掲げるラクス・メディア・コレクティヴの活動は、25年前から始まった。
これまで発表してきた作品は、写真からインスタレーションまで多岐に渡り、3度のヴェネチア・ビエンナーレ(2003、2005、2015)をはじめ、世界各国の国際展に参加。日本での作品発表も経験している。例えば、奥能登国際芸術祭では、のと鉄道の旧上戸駅駅舎をテーマに、駅舎の「骨格」を浮かび上がらせた《うつしみ》を発表したことは記憶に新しい。
こうしたアーティスト活動のいっぽう、ラクス・メディア・コレクティヴはキュレーションの分野でも精力的な取り組みを行ってきた。そのきっかけは2006年、ドイツ・シュトゥットガルトでのある展覧会にキュレーターとして参加したことだったという。
当時、昼間は自ら手がける書籍『サライ・リーダー』の編集作業を、夜間はアーティスト活動をするというスタイルだったラクス・メディア・コレクティヴ。「シュトゥットガルトで、まったく別のバックグラウンドを持った人々と一緒にプロジェクトに関われたことで、そろそろ真剣にキュレーションに取り組むべきなのではないかと考えるようになったのです」とジーべジュ・バグチは語る。
その後、2008年には「マニフェスタ7」(イタリア)に3組のキュレーターのうち1組として参加。また近年では、16年の「第11回上海ビエンナーレ」で劉慈欣(リュウ・ジキン)のSF小説『三体』をもとに展覧会を構成した。
こうした経験を踏まえ、ジーべジュ・バグチは国際展についてこう語る。「世界中、国際展だらけというのは周知の通りです。そんななか興味深いことがあります。それは、これまでは国際展は北半球に集中していましたが、いまは世界中に分散してきているということ。世界的な現象なのです。しかも密度が高まっている。そのような状況で私たちが興味を持っているのは、文化芸術の真の発信源であるつくり手たちはどこにいて、どう動いているかということ。そして生み出された成果物がどのように我々に伝わっているのかということです」。
こうした「国際展ブーム」とも言える状況で、ラクス・メディア・コレクティヴはどのようにヨコハマトリエンナーレ2020をキュレーションしていくのか? この講演で詳細は語られなかったが、重要な要素は示されたと言えるだろう。ナルラはこう語る。「キュレーションするにあたって揺るがせないこと。それは、その場所はどういう場所なのか、そしてそこでやる意味とはなんなのかということです」。
イギリス人文化人類学者トム・ギルがドゥルーズやガタリなどを語る日雇い労働者を追ったルポルタージュ『Yokohama Street Life』などを参照しているというラクス・メディア・コレクティヴ。彼らの手によって、日本を代表する国際展である横浜トリエンナーレはどのような姿を見せるのか。今後の動向に注目してほしい。