「ファインアート・ユニバーシアード U-35展」の受賞者が決定。3331での選抜展へ巡回
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「今回の作品はひとつの場面ではあるものの既視感により過去の記憶を思い起こすような多次元のレイヤーを想起できる感覚を得られる作品にしたいと思いました。一見、よく見られる光景の中にこそ幸福が潜んでおり、その幸福に人は度々出会っています。当たり前すぎて気づけないことも多々ありますが、その瞬間こそが人を豊かにするのです」
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「一円硬貨のフロッタージュによりドット絵のように自身の立像を描いた作品です。タイトルは使用している硬貨の枚数を反映しており、人間の価値、自分自身の価値を自虐的に表しています。また数字の1が並ぶことによるデジタルなイメージと、モザイクのようなおぼろげなビジュアルにより、今を生きる人間の存在の希薄さを表すことができないかと考えました。そして硬貨のフロッタージュ自体が、私たちの存在や行動の対価となる通貨の抜け殻のような姿でもあります」
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「私自身の自然観の表出を動機とし、毛皮の形態を借りて表そうとしたものです。アクリルに毛生地の毛面を接着し、ナイフによって剥がしていくことで作り上げていきます。作られた毛皮であり、ゆえにフェイクレザーやフェイクファーと似たものであるように感じます。人工的なものを通して、私達は自然や、伴う風景を、実際の所どのような実感でもって接しているのか、という点を浮き彫りにさせたいと思っています」
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「私の使用している板紙凹凸版は、光沢白ボール紙を版に用いた技法です。まだまだ知名度も低く、発展途上の技法ですが、これを用いた作品を評価して戴けたことを嬉しく思います。以前から複雑な構造の鳥巣に魅力を感じ制作しており、本作ではピーテル・ブリューゲルの『バベルの塔』に感銘を受け、リアリティのある細密表現と幻想的な世界観の両立を目指し、取り組みました」
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「作品をみてもらえて単純にありがたいという気持ちが強いです。自分の作品については煮え切らない部分も多く、これからの課題だと思っています。しかし、『色の対比やテクスチャのスケールの対比など、いくつかの対比の組み込み』について評価していただいた部分に関しては、これまで私が制作において大切にしていたところであったため、少しの自信にもつながりました」
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「私はファッションに関わる美意識を表現した作品制作を行っています。様々な美意識があるなかで、『粋』という江戸時代の厳しい規則のなかで生まれた美意識に興味があります。江戸時代と違い、ファッションがとても自由な現代で『粋』という美意識はどのようなかたちで残っているのか。本作は、ファッションにおける肌の見せ方を木に落とし込みました。彫った溝のトップを着彩することで、木目が一つの固まりではなく、ラインの下に透けて見えるような効果を出しています」
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「この数年は主に金文(青銅器に鋳込まれた銘文)の字形を用いて継続的に作品制作に取り組んでおり、今回発表した作品もそのひとつです。金文は文字の造形が非常に魅力的で楽しく制作に取り組める反面、そこには古い歴史に伴う様々な解釈や、現代における表現方法の是非があり、より一層の学習や追究が必要であることを、いつも痛感させられます」
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編集部