会場には壁面の巨大なプロジェクターのほか、9つのキューブがならび、それぞれの内部で映像が上映、来場者はヘッドホンをつけてそれぞれの作品を鑑賞するという構成となっている。参加しているのは、フランス、シンガポール、イラク、エルサルバドル、パナマ、ベナン、ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、ウクライナ、コロンビアの各国代表のアーティストだ。その一部を紹介したい。
まず、大型のモニターで上映されているのがウズベキスタンとフランスを拠点に活動し、「ヴェネチア・ビエンナーレ 2022」や「ドクメンタ15」(2022)などに参加したサオダット・イズマイロボの作品《18000 Words》(2023)だ。イスラム教の神秘思想を題材にした映像作品で、ウズベキスタンの先祖伝来の知識や伝統的な精神的慣習、そして映画史の記録映像を交錯させることで同国の現代史を紡ごうとしている。
エルサルバドルのフレディ・ソランは、石でできた「石の塔」とガラスでできた「光の塔」のあいだに、存在しない第三の塔を光とファイバー製の布によってつくりだす、巨大なインスタレーションを作成する作家。本展では同作を映像としてとらえた《Horizon without Body on the Hedjuk Towers》(2017)を見ることができる。
コロンビアのカルデロン&ピニェロスは、同国のマグダレナ川に白いカバがただようインスタレーションを映像化した《Hippos in Gravitas》(2022)を展示した。コロンビアで麻薬王として絶大な権力を持ったパブロ・エスコバルが私有地に建設した動物園は、エスコバルの死後、野放しとなった。逃げ出したカバは野生化して繁殖して住民に被害をもたらしており、保護と駆除をめぐって社会問題となっている。カルデロン&ピニェロスは本件に代表されるような、人間の身勝手さと自然の問題を映像で問いかける。