• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • MARKET
  • 経済同友会が「アート産業活性化に向けたエコシステムの構築」…
2021.5.13

経済同友会が「アート産業活性化に向けたエコシステムの構築」を発表。国内アート産業の今後の施策について提言

公益社団法人経済同友会が「アート産業活性化に向けたエコシステムの構築」を発表。国内のアート産業の現状と課題を分析しつつ、今後の活性化に向けた8つの提言をまとめた。

経済同友会が入居する東京・丸の内の日本工業倶楽部 (c)PhotoAC

 公益社団法人経済同友会が「アート産業活性化に向けたエコシステムの構築」を発表した。これは、国内のアート産業の現状と課題を分析しつつ、今後の活性化に向けた8つの提言をまとめたものだ。

 書面ではまず、日本のアート産業の現状を整理している。世界のアート市場規模が5.4兆円なのに対して、国内のアート市場は1パーセント未満ながらも、100万ドル以上の資産を持つ富裕層は世界全体の6パーセントを占めており、高額なアート作品を購入するポテンシャルを十分有しているとしている。また、中・低価格の作品についても、近年のアートへの関心の高まりから大きなマーケットになる可能性を有していると述べており、昨今の国内オークションやアートフェアが好調であることを反映した結論といえる。

 こうした現状を踏まえたうえで、国内アート産業が活性化しない要因を、次の4つの課題を中心にまとめている。

  1. アート市場のグローバル化が不十分
  2. 公的評価制度・税制が未整備
  3. アート市場の裾野拡大が不十分
  4. アートの管理体制が未構築

 なかでも1の「アート市場のグローバル化が不十分」については、アートフェアやアートオークションの規模の小ささや海外への知名度の低さや、批評やメディアの海外発信力の低さ、国際的な学術拠点の誘致新設や研究者の育成などができていないことが挙げられており、作品を広く届ける場の整備のみならず、アートの価値や歴史を形成する言説を育てる必要性にも触れられていることに注目したい。

  また、2の「公的評価制度・税制が未整備 」については、海外諸国に比べてアート作品に対する公的評価制度の整備が遅れており、購入や売却をする際の税額の予見ができないことを問題視。さらに寄付税制や相続税などにおけるアートの控除や猶予の制度が弱く、また減価償却についても、2004年に償却可能上限が1点100万円未満まで引き上げられたが、高額作品が当たり前のアートにおいては不十分であることが指摘された。こうした税制についてはこれまでも議題となってきたが、政権とのつながりを有する企業連合である経済同友会がこの点を課題として認識していることは意義深い。

 こうした課題を踏まえたうえで、制度や教育といった「アート産業活性化の基盤の形成」、市場のグローバル化や低中価格帯のマーケット創出といった「アート産業活性化」、そして地域活性化や企業経営といったアートの社会貢献の「アートがもたらす社会貢献」を3つの柱とし、産業界との関わりを提案する「アート産業活性化のエコシステム」の創出の必要性を問いている。

 この「アート産業活性化のエコシステム」を実現するために必要とされるのが、以下の8つの提言だ。

  1. 保税地域を有効活用しアート市場のグローバル化を
  2. オープンイノベーションによってアート産業への投資促進を
  3. アーティスト育成のための環境整備を
  4. アート作品に対する公的評価制度の構築を 
  5. アート投資促進のための抜本的な税制改正を 
  6. アート作品のストックの流動化を 
  7. アート市場に関する公的統計の構築を
  8. アート×教育による教養の醸成を  

 なかでも、産業界からの提言として注目したいのが、1の「保税地域を有効活用しアート市場のグローバル化を」だ。

 「保税地域を有効活用しアート市場のグローバル化を」では、アジアにおけるアート産業のハブであった香港の情勢変化により、国際的なギャラリーやオークション会社が新たなアート拠点を望んでおり、日本がそれにふさわしい場となることが早急な課題とされている。

 具体的な施策は次のかたちだ。2021年2月の規制緩和により、保税地域では一時的に消費税を課されることなく、外国からの美術品の蔵置や展示が可能となったことに着目。保税地域に国際的なアートフェアやオークションを誘致し、保税展示場・保税蔵置場としての申請が認可されれば、日本全国で保税地域を活用した国際的なアート活動が展開できる。また都市部に保税蔵置場を置くことで、海外のメガギャラリーが進出しやすい環境をつくれるとしている。

 さらに保税地域をフリートレードゾーンとして、美術品の梱包・輸送や修復拠点、保税倉庫や保険機能の整備を実施。また、昨年12月に閣議決定された「外国人が働きやすい環境を作るための諸施策」を追い風とし、アートに関わるグローバルな人材の労働環境もつくることも提言された。

 各提言の実行手順の優先順位も整理されているが、とくに行政が直ちに着手するべきものとして、公的評価制度構築のための働きかけや相続税の制度変更が挙げられた。ほかにも、アート市場の実態を正確に反映する公的な統計の設立や、作品画像をテジタル化しインターネットで高画質のアーカイブを公開するための著作権法の改正など、その内容は具体的なものとなっている。

 情勢変化やコロナ禍の影響によって変化の渦中にあるアート産業。今回の経済同友会の提言は、これまでアート業界で問題として認識されてきたことをなぞりながらも、それを踏まえたうえで行政や産業界が具体的にどのような動きをするべきなのかをまとめたものとして、注目に値するといえるだろう。