ポーラ ギンザ、光・音・香りの森へリニューアル。五感で“美意識”をひらく【2/3ページ】

 壁面から降り注ぐ光は一定ではなく、豊久将三による独自の光制御によってつねに淡く明滅し、森のなかに身を置くような感覚をもたらす。豊久は「影をつくってほしい」という妹島の要望に応えるため、照明器具、ランプ、制御装置のすべてを既製品ではなく、この空間専用に制作した。

ポーラ ギンザ1階 内観 撮影=新津保建秀

 「照明家に『影をつくる』と言うのは物理学的に矛盾しているが、結果的にかたちにすることができた。とくに1階は、照明というよりも“光のインスタレーション空間”だと言える」(豊久)。

 空間の随所には、「外」と「内」をつなぐ仕掛けが埋め込まれている。1階の床に開けられた小さな穴もそのひとつで、そこから地下へ落ちる光が、地下空間に外界の存在をささやかに伝える。妹島はこう語る。「地下は沈み込むような空間だが、遠くから届く光が、日常から続く外の世界を思い起こさせる“小さな接点”になるようにした」。

ポーラ ギンザ地下1階 エステフロア 撮影=新津保建秀

 空間全体には、渋谷慶一郎による生成型サウンドインスタレーション《Abstract Music》が響き渡る。1階と地下1階に配置された46個のスピーカーのあいだを音が自由に移動し、その構成は二度と同じにならない。

 渋谷はこう説明する。「素材の配置やタイミングをコンピューターに委ね、人間の意志を介在させないことで、超自然的な音環境が生まれる。そして、この作品の本質は“一期一会”。不断に変化する音は人を“瞬間”に敏感にさせ、緊張感と解放感が同時に存在する。これこそが“美”と並行して進行する新しい体験になる」。

ポーラ ギンザ地下1階 エステルーム 撮影=新津保建秀