2025年1月25日〜4月6日、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」が開催される。
本展は、ブルックリン博物館が所蔵する約150点の古代エジプトコレクションが一堂に会し、彫刻や棺、宝飾品、陶器、パピルス、さらには人間やネコのミイラといった多岐にわたる展示品を通じて、古代エジプト文明の高度な文化とその背景にある人々の営みを紐解いていくもの。長い歴史と神秘に満ちた古代エジプトの文化を多面的に探求する貴重な機会となる。
本展の監修を務めるのは、いま注目を集める気鋭のエジプト考古学者・河江肖剰(かわえ・ゆきのり)。本展では、最新技術を駆使したピラミッドの研究成果も紹介される予定であり、市井の人々の日常生活や食事、台所の様子といった、これまで焦点が当たらなかった部分も展示されるという。
例えば、本展のメインビジュアルのひとつとして使用される《貴族の男性のレリーフ》は、貴族の男性が特徴的なカツラを着けている姿が描かれたもの。古代エジプトではカツラを用いた髪型の変化が楽しみのひとつであり、この作品からもその文化的な側面がうかがえる。また、同作は東京展のみの特別展示であり、保存状態の美しさにも注目が集まる。
《書記と高官を務めた人物のレリーフ》では、書記があぐらをかいて筆記する姿が描かれている。古代エジプトにおいて、書記はもっとも重要な職業のひとつであり、文字を記録することが人々の生活と密接に結びついていた。また、エジプト美術では横顔や側面が強調されることが多いため、組んだ足と肩が正面からの視点で描かれたこのレリーフは初期の特異な表現として貴重な作品だ。
《ベス神の顔をかたどった壺》で描かれたベス神は安産や子供を守護する神として古代エジプトで崇拝されており、この壺もそうした役割を担っていたと考えられる。壺の正面には、家庭や子供を邪悪なものから守る意味を込めた強い表情が描かれており、その独特なデザインが観客の目を引くだろう。
《王宮の調理場のレリーフ》には、パンを焼く場面やワインを運ぶ場面が描かれており、古代エジプト人の食文化が生き生きと表現されている。古代エジプトのファラオ・ツタンカーメンの墓から発見されたワインには「何年もの」や「どこ産」といった情報が記録されており、古代エジプト人が現代と同じようにワインを楽しんでいたことがわかる。
また、本展では古代エジプトのジェンダー観にも触れている。古代エジプトの思想では、亡くなった女性は再生のために一度男性になる必要があると考えられていたため、通常、棺では完全に男性として描かれることが多い。しかし、《〈家の女主人〉ウェレトワハセトの棺と内部のカルトナージュ》では、女性的な特徴と男性的な特徴が混在しており、古代エジプトの複雑な信仰や性別に関する思想を理解する手がかりとなる。
また、本展ではミイラづくりのプロセスを再現したアニメーション映像もあるほか、古代エジプト語の音声も楽しめる。足を運び、古代エジプトの壮大な世界に触れてみてはいかがだろうか。