東京・町田市の町田市立国際版画美術館で、同館のコレクションから西洋版画を中心に旅や移動に関わる16~20世紀の作品を展示する「版画家たちの世界旅行―古代エジプトから近未来都市まで」が開催される。会期は7月22日〜9月24日。
本展では、テーマに関する作品を約160点展示。それらの作品には、古代文明発祥の地であるエジプトから、多くの芸術家を魅了したイタリア、都市と自然が共存するイギリスやフランス、そして高層ビルの建ち並ぶアメリカ・ニューヨークまでが描かれ、展覧会を通じて400年のときを超えた世界旅行を味わうことができる。
会場は「第1章:イタリアを目指す旅」「第2章:『オリエント』をめぐる旅」「第3章:『絵になる風景』を発見する旅」「第4章:都市に集う芸術家の旅」「第5章:現代の『旅する芸術家』」の全5章で構成される。
「第1章:イタリアを目指す旅」では、芸術家たちが仕事のみならず自己研鑽を目的に旅行をするようになった16世紀の頃の作品から、17世紀末から19世紀の裕福な若者が「グランド・ツアー」先で描いたローマやヴェネツィアの名所を表した絵画や版画が紹介される。
19世紀のヨーロッパで流行した「オリエンタリスム(東洋趣味)」の影響が見られる作品が「第2章:『オリエント』をめぐる旅」では展示される。旅行記などから得た情報をもとに見知らぬ土地を想像してきたヨーロッパの芸術家らは、19世紀になると実際に現地を訪れるようになった。西洋にとってオリエントとは「未開の地」であるとともに原初的な生活が営まれる魅惑的な「楽園」でもあったという。
18世紀末から19世紀の産業革命下のイングランドやフランスでは、失われゆく自国の自然や農村、朽ちた歴史的建造物などをめぐる「ピクチャレスク・ツアー」が盛んに実施され、それらの絵が多くの挿絵本に使用された。また、19世紀なかばに鉄道の建設が始まったことにより人々の移動が増え、アトリエを離れて絵を描くようになったという。「第3章:『絵になる風景』を発見する旅」ではこれらの状況が垣間見える作品が紹介される。
「第4章:都市に集う芸術家の旅」では、若き芸術家が最初に経験する大旅行・大都市への移動を切り口に作品を展示。描かれた群衆や大通り、高層ビルがその特徴ともいえる。いっぽうで第2次世界大戦期にはヨーロッパを離れてアメリカに渡った亡命芸術家も存在する。そうしたコミュニティでは実験的な版画が制作され、戦後のアメリカ美術に多大な影響を与えた。
展覧会のラストを飾る「第5章:現代の『旅する芸術家』」では、世界各地で大規模なアート・プロジェクトを手がけた「クリストとジャンヌ=クロード」の芸術家夫婦と、ヨーロッパからアジア、南極までを旅した版画家ヨルク・シュマイサーを紹介。インターネットやメディアが普及した現在においても、実際に現地へ赴き、インスピレーションを得る芸術家たちの事例が展示される。
なお、本展の開催にあわせて関連イベントも数多く実施予定。詳細や申込みに関しては公式ウェブサイトで確認してほしい。