江戸の職人街から発展し、古くは歌川広重や北大路魯山人も居を構え、現在では古美術をはじめとする美術商の街としても知られる京橋。2019年のアーティゾン美術館開館に次いで、2024年には新たにアートを中心に据えた「TODA BUILDING(TODAビル)」が竣工する。
6フロアでアートを展開
これは、都市再生特区制度を活用し、戸田建設が計画段階を含めて2009年から進めている再開発事業「京橋一丁目東地区計画」の一部となるもの。同計画では「まちに開かれた、芸術・文化拠点の形成」を特区テーマに据えており、2019年のアーティゾン美術館開館は大きなインパクトを与えた。
そのアーティゾン美術館が入るミュージアムタワー京橋に隣接するかたちで竣工するのが、地下3階27階建ての超高層ビル「TODAビル」だ。高層部(8階以上)は賃貸オフィスとなるものの、低層部(1〜6階)は、戸田建設がアート事業を展開するフロアとなる。
戸田建設では、アート事業のコンセプトを「ART POWER KYOBASHI」とし、アーティストやキュレーターが創作・交流・発信(発表)・販売できる場を提供。アートによって京橋という街のエコシステムを形成するという考えを示している。
具体的なフロア構成としては、1階にアートショップ・カフェが入り、1〜2階共用部には現代美術を展示するスペースを設置。また3階には、国内の現代美術ギャラリーが複数入居予定だというギャラリーコンプレックスや、創作交流ラウンジが設けられる。
4〜5階はコンサートや展示会なども可能なイベントホールとなり、6階にはソニー・クリエイティブプロダクツが運営するミュージアムが入居。音楽や映画、アニメ、現代アート、建築など、幅広いジャンルをカバーするという。
特徴的なのが、エントランスの3層吹き抜けの共用空間で行われるパブリック・アート・プログラムだ。これはTODAビルアート事業のなかでもメインのひとつとして位置付けられるもので、年単位で展示替えを行うことで更新性を担保するという。
このプログラムの皮切りとして、国内外で活躍する飯田志保子が第1回のキュレーションを担当。「螺旋の可能性──無限のチャンスへ」をコンセプトに、持田敦子、毛利悠子、野田幸江、小野澤峻の4作家による作品が展示される予定だ。
飯田は、「健やかでしなやかな感性と遊び心を持ち合わせたアーティスト」としてこの4作家を選定。螺旋構造や回転、振り子運動などの特徴を持つ作品が予定されているという。飯田は、「たまたま街区に足を踏み入れた方やオフィスワーカーの方々がアーティストの作品を見て、自分自身の変化を写し鏡のように感じてもらえたら」と、期待を込めて語っている。
アートでつねに感動を
デベロッパーがアート事業を手がける例は少なくないが、「アート」の方向性が定まらず、結果的に特徴が活かしきれない、というケースもある。いっぽう戸田建設では、アート事業に様々なアドバイスを行う「アドバイザリーコミッティ」を設け、プロフェッショナルの知見を取り入れる体制を整えた。
メンバーには唐澤昌宏(国立工芸館館長)、小池一子(クリエイティブ・ディレクター)、小山登美夫(小山登美夫ギャラリー代表)、遠山正道(スマイルズ代表取締役社長)、豊田啓介(建築家/東京大学院特任教授)が名を連ねており、現代アートのみならず、様々な芸術文化領域をカバーしていきたい考えが読み取れる。
戸田建設の戦略事業推進室長・植草弘は、アートをビルの中核に据える理由として、「素晴らしいビルを訪れても、何度か通ううちに感動が薄れてしまう。しかしアートは同じ作品でも何百年ものあいだ、人々を感動させることができる」としつつ、「アートをビルに取り入れることで、新しい価値を創出し、長きに渡り、感動を与え続けたい」と意気込みを見せる。
都心において、ここまで大規模かつ大胆にアートを取り入れた開発プロジェクトは珍しいと言える。この戸田建設の新たな取り組みは、街と人にどのような影響を与えることになるだろうか。